1980年以降、平均BMIは世界的に増加傾向にあるが、その変動の傾向や直近の2008年の値には大きな差がみられることが、アメリカ・ハーバード大学公衆衛生大学院生物統計学科のMariel M Finucane氏らによる系統的な解析で明らかとなった。過体重は公衆衛生学上の重大な関心事だが、BMIの長期的な変動を世界規模で検討した解析はほとんどなく、直近の全国的な健康診断調査のデータに基づくものは皆無だという。Lancet誌2011年2月12日号(オンライン版2011年2月4日号)掲載の報告。
1980~2008年の199の国と地域、910万人のデータを解析
研究グループは、1980~2008年までの199の国と地域における20歳以上の成人の平均BMIの世界的な変動傾向を推定するために系統的な解析を行った。
既報または未公開の健康診断や疫学試験を調査し、960ヵ国・年、910万人分のデータを収集した。ベイジアン階層モデルを用いて、年齢、国、年度別の平均BMIをそれぞれ男女別に推算し、各調査・試験が当該国の典型を示すものか地域限定的なものかを明らかにした。
2008年の世界の肥満者:男性2億500万人、女性2億9,700万人
1980~2008年の間に、最も多くの全国規模のデータを有していたのは日本であった(16の調査データ)。この間に、世界全体の男性の平均BMIは10年ごとに0.4kg/m2[95%不確かさ区間(uncertainty interval):0.2~0.6]増加し(真の増加となる事後確率:>0.999)、女性では0.5kg/m2(同:0.3~0.7)増加した(事後確率:>0.999)。
国別の女性の平均BMIの変化は、有意差のない低下を示した19ヵ国から、10年ごとに2.0kg/m2増加(事後確率>0.99)したオセアニアの9ヵ国までの幅が認められた。男性では、8ヵ国を除く国々で平均BMIが上昇しており、オセアニアのナウルとクック諸島では10年ごとに2kg/m2以上の増加(事後確率>0.999)がみられた。
2008年の平均BMIは男女ともにオセアニア諸国で最も高く、ナウルでは男性が33.9kg/m2(95%不確かさ区間:32.8~35.0)、女性は35.0kg/m2(同:33.6~36.3)に達していた。平均BMIが最も低かった国は、女性がバングラデシュの20.5kg/m2(同:19.8~21.3)、男性はコンゴの19.9kg/m2(同:18.2~21.5)であり、サハラ砂漠以南のアフリカ諸国と東、南、東南アジアの数ヵ国は男女ともに21.5kg/m2未満であった。
高所得国の中で最も平均BMIが高かったのは、男性がアメリカ、イギリス、オーストラリアの順で、女性はアメリカ、ニュージーランドの順であった。2008年に、過体重以上(BMI≧25kg/m2)の成人は世界で14億6,000万人(95%不確かさ区間:14億1,000~15億1,000万人)と推算され、そのうち男性の2億500万人(同:1億9,300万~2億1,700万人)、女性の2億9,700万人(同:2億8,000万~3億1,500万人)が肥満(BMI≧30kg/m2)と推定された。
著者は、「1980年以降、平均BMIは世界的に増加していたが、変動の傾向および2008年の平均値は、国によって大きなばらつきがみられた」と結論し、「ほとんどの国では、BMIの増加の抑制や低下への転換を進めたり、代謝メディエーターを標的に高BMIの健康への影響を軽減する介入法や方策が必要である」と指摘している。
(菅野守:医学ライター)