適度な飲酒は、飲酒しない場合に比べ広範な心血管関連のアウトカムを改善するとともに、全原因死亡のリスクをも低減することが、カナダ・カルガリー大学のPaul E Ronksley氏らの検討で明らかとなった。これまでにも飲酒が種々の心血管関連アウトカムに影響を及ぼすことがいくつかの系統的なレビューで示されているが、いまとなってはこれらのレビューは古いもので、また広範な心血管関連のエンドポイントを包括的に調査、解析したものではないという。BMJ誌2011年2月26日号(オンライン版2011年2月22日号)掲載の報告。
日本の7試験を含む84の試験の包括的な系統的レビューとメタ解析
研究グループは、飲酒が多様な心血管アウトカムに及ぼす影響を評価した試験について包括的な系統的レビューを行い、メタ解析を実施した。
Medline(1950~2009年9月)およびEmbase(1980~2009年9月)を検索して論文を抽出し、参考文献や会議記録などにも当たった。レビューの対象としたのは、飲酒と心血管疾患死、冠動脈心疾患罹患・死亡、あるいは脳卒中罹患・死亡との関連について検討したプロスペクティブなコホート研究であった。
4,235試験について患者選択基準、試験の質、データ抽出法を評価し、最終的な解析の対象となったのは日本の7試験を含む84の試験であった。
個々の解析項目のアウトカムについてプール解析を行い、変量効果モデルを用いて、非飲酒者との比較における飲酒者の調整相対リスクを算出した。
1日1杯の飲酒で心血管イベントのリスクが14~25%低減
全体として、飲酒者の相対リスクは、心血管疾患死(解析試験数:21試験)が0.75(95%信頼区間:0.70~0.80)、冠動脈心疾患罹患(29試験)が0.71(0.66~0.77)、冠動脈心疾患死(31試験)が0.75(0.68~0.81)、脳卒中罹患(17試験)が0.98(0.91~1.06)、脳卒中死(10試験)は1.06(0.91~1.23)であった。
1杯の酒類のアルコール含有量を12.5g[ビール:355mLの缶または瓶、ワイン:グラス1杯(148mL)、40度の蒸留酒:グラス1杯(44mL)にほぼ相当]と規定して飲酒量とリスクの用量反応解析を行ったところ、冠動脈心疾患死のリスクが最も低かったのは1日1~2杯の飲酒者で、脳卒中死リスクは1日1杯以下の飲酒者で最も低かった。
全原因死亡のリスクは、飲酒者のほうが非飲酒者よりも13%低かった(相対リスク:0.87、95%信頼区間:0.83~0.92)。
著者は、「1日2.5~14.9gのアルコール摂取(約1日1杯以下)は、非アルコール摂取に比べ、広範な心血管関連アウトカムのリスクを全体として14~25%低減していた」とまとめ、「飲酒による心血管イベントのリスク低減効果は臨床的に重要だが、大量の飲酒は脳卒中の罹患、死亡リスクを増大させることに留意すべきである。これらの効果の根本的な病態生理学的メカニズムを解明する必要がある」と指摘している。
(菅野守:医学ライター)