2型糖尿病患者に対するグループ活動ベースのピアサポート(peer support)による介入は、HbA1cや総コレステロール値などを改善せず、プライマリ・ケアへの広範な導入は支持されないことが、アイルランド・トリニティ・カレッジ(ダブリン大学)プライマリ・ケア科のS M Smith氏らの検討で示された。ピアサポートは「同様の人生経験の共有に基づく経験知を持つ個人による支援の提供」と定義される。糖尿病患者同士が、日々の生活のマネージメントにおいて互いに支え合うために自らの能力を活かすものであり、WHOも糖尿病治療の有望なアプローチの一つとして注目しているが、現時点ではその有効性を支持するエビデンスは限られているという。BMJ誌2011年2月26日号(オンライン版2011年2月15日号)掲載の報告。
2年間のピアサポートに関するクラスター無作為化試験
研究グループは、2型糖尿病患者に対するピアサポートの有効性を検証するクラスター無作為化対照比較試験を実施した。
アイルランド東部地域の20のプライマリ・ケア施設に、2型糖尿病患者395例およびピアサポーター29人が登録された。全施設が標準化された糖尿病治療システムを導入していた。ピアサポートによる介入期間は2年間で、介入は以下の4つの要素で構成された。
1)ピアサポーターの登録:1人で7~8人の患者を担当。1年以上の2型糖尿病罹患歴があり、予防治療を受けて治療チームによって治療や行動変容療法を遵守しうると判定され、必要な訓練の実行能力をもつなどの条件を満たす者
2)ピアサポーターの訓練:2型糖尿病の基礎やグループ診療、守秘義務などに焦点を当てた2回の講習会を受講
3)ミーティング:医療従事者、ピアサポーター、患者が参加するミーティングのほか、ピアサポーターが催し医療従事者は関与しないセッションが2年間で9回開催され、フィードバックを受けた研究チームが「よくある質問(FAQ)」を作成して次回ミーティングで活用
4)ピアサポーターのサポート:ミーティング前後の電話相談、年1回の社会的、教育的イベント開催、関連経費の金銭的助成など
主要評価項目は、HbA1c、総コレステロール値、収縮期血圧、健康度スコアとした。
全主要評価項目で改善なし、不参加者が18%
10施設(192例)が介入群に、10施設(203例)が対照群に割り付けられ、全体のフォローアップ完遂率は85%(337/395例)、各群の完遂率はそれぞれ87%(166/192例)、84%(171/203例)であった。
2年間のフォローアップで、いずれの主要評価項目も有意な改善効果は得られなかった。HbA1c(平均差:−0.08%、95%信頼区間:−0.35~0.18%)、総コレステロール値(−0.03mmol/L、−0.28~0.22mmol/L)、収縮期血圧(−3.9mmHg、−8.9~1.1mmHg)、健康度スコア(−0.7、−2.3~0.8)。
介入群における収縮期血圧>130mmHgの患者は52%(87/166例)と、対照群の61%(103/169例)に比べて良好であり、全体としてコントロール不良なリスク因子を有する患者の割合は介入群で減少傾向にあったが、いずれも有意差は認めなかった。
介入は全般に予定どおり行われたが、介入群の患者の18%(35例)が一度もミーティングに参加しなかった。
著者は、「2型糖尿病患者に対するグループ活動ベースのピアサポートによる介入は、プライマリ・ケアにおいて実行可能であったが、全例を対象とした場合には有効ではなかった。臨床アウトカムは改善傾向を認めたものの、広範なピアサポートの導入を支持する結果は得られなかった」と結論し、「Peers for Progress(
http://www.peersforprogress.org/)は世界各地で2型糖尿病のピアサポートに関する臨床試験やデモンストレーションを展開中であり、コントロール不良例にターゲットを絞ったサポートなどのモデル開発に向け、さらなる検討を進めている」としている。
(菅野守:医学ライター)