慢性疲労症候群の治療では、専門医による治療(SMC)に加え認知行動療法(CBT)あるいは段階的運動療法(GET)を併用すると、SMC単独に比べ中等度の予後改善効果が得られるが、適応ペーシング療法(APT)を併用しても相加効果は認めないことが、英国・ロンドン大学クイーン・メアリー校のP D White氏らが行ったPACE試験で示された。慢性疲労症候群は「生活が著しく損なわれるような強い疲労」で特徴付けられ、筋痛性脳脊髄炎と同一疾患とする見解のほかに、別の診断基準に基づく異なる疾患と捉える考え方もある。CBTやGETの有効性を示す知見がある一方で、患者団体による調査ではAPTやSMCのほうが有効な可能性があると報告されている。Lancet誌2011年3月5日号(オンライン版2011年2月18日号)掲載の報告。
4つの治療法を患者自身が評価
PACE試験の研究グループは、慢性疲労症候群におけるCBT、GET、APT、SMCの4つの治療法の有用性を評価する無作為化試験を行った。
イギリスの6施設から登録されたオックスフォード基準を満たす慢性疲労症候群患者が、SMC単独、SMC+APT、SMC+CBT、SMC+GETのいずれかの治療を受ける群に無作為に割り付けられた。
主要評価項目は、52週における疲労(Chalder疲労質問票スコア)および身体機能(SF-36 subscaleスコア)であり、治療に対する重度有害反応に基づく安全性の評価も行った。
主要評価項目の評価は患者自身によるが、試験デザインの性格上、割り付け情報はマスクされなかった。統計解析担当者にはマスクされた。縦断的回帰モデルを用いてSMC単独と他の3つの併用治療の比較を行った。
疲労スコア、身体機能スコアとも、CBT併用群、GET併用群で改善
患者選択基準を満たした641例のうち、SMC+APT群に160例が、SMC+CBT群に161例が、SMC+GET群に160例が、SMC単独群には160例が割り付けられた。
52週における平均疲労スコアは、SMC単独群に比べCBT併用群は3.4ポイント(95%信頼区間:1.8~5.0)有意に低く(p=0.0001)、GET併用群は3.2ポイント(同:1.7~4.8)有意に低かった(p=0.0003)が、APT併用群では0.7ポイント(同:-0.9~2.3)の低下にとどまり、有意差を認めなかった(p=0.38)。
平均身体機能スコアは、SMC単独群と比較してCBT併用群は7.1ポイント(95%信頼区間:2.0~12.1)有意に高く(p=0.0068)、GET併用群は9.4ポイント(同:4.4~14.4)有意に高かった(p=0.0005)が、APT併用群では3.4ポイント(同:-1.6~8.4)の上昇にとどまり、有意な差はみられなかった(p=0.18)。
APT併用群に比べCBT併用群およびGET併用群は、平均疲労スコアが有意に低く(それぞれ、p=0.0027、p=0.0059)、平均身体機能スコアは有意に高かった(p=0.0002、p<0.0001)。
慢性疲労症候群の国際基準を満たす427例および筋痛性脳脊髄炎のロンドン基準を満たす329例についてサブグループ解析を行ったところ、両群とも同等の結果が得られた。
重度の有害反応は、APT併用群が1%(2/159例)、CBT併用群が2%(3/161例)、GET併用群が1%(2/160例)、SMC単独群は1%(2/160例)に認められた。
著者は、「慢性疲労症候群の治療では、CBTおよびGETはSMCと安全に併用可能であり、中等度の予後改善効果が得られたが、APTにはSMCとの相加効果を認めなかった。別の診断基準を用いた場合にも同等の結果が得られた」と結論し、「患者には、SMCとともにCBTあるいはGETを受療するよう提言すべき」としている。
(菅野守:医学ライター)