便失禁治療、安定化ヒアルロン酸ナトリウムデキストラノマー粘膜下注入が有効

提供元:ケアネット

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公開日:2011/03/31

 

 便失禁に対する低侵襲性の治療として、安定化ヒアルロン酸ナトリウムデキストラノマー(NASHA Dx)の経肛門的粘膜下注入療法が有効なことが、スウェーデン・ウプサラ大学病院(Akademiska sjukhuset)外科のWilhelm Graf氏らの検討で示された。アメリカでは20~30歳の2.6%から70歳以上の15.3%までの頻度で便失禁がみられると報告されているが、その原因は多岐にわたり完全には解明されていない。治療としては、肛門管への充填剤注入療法を施行する施設が増加しているが、その有効性を証明した対照比較試験はないという。Lancet誌2011年3月19日号掲載の報告。

欧米の13施設が参加した無作為化シャム対照試験

 研究グループは、便失禁の治療における肛門括約筋粘膜下へのNASHA Dx注射の有効性と安全性を評価する二重盲検無作為化シャム対照試験を実施した。

 2006年9月~2008年9月までにアメリカの8施設およびヨーロッパの5施設から、Cleveland clinic Florida便失禁スコア(CCFIS)≧10で、2週間に4回以上の便失禁が認められる18~75歳の患者が登録された。

 これらの患者が、経肛門的粘膜下NASHA Dx注入療法を施行する群あるいはシャム対照群に無作為に割り付けられた。治療開始後6ヵ月間、患者と臨床評価を行う医師には割り付け情報が知らされなかったが、注射を行う医師にはマスクされなかった。患者は便失禁エピソードを記録し、2週間当たりの無失禁日の日数を算出した。

 主要評価項目は、「ベースラインとの比較における便失禁回数の50%以上の低下」で定義された治療への反応とした。治療3、6ヵ月に臨床評価を行い、NASHA Dx群のみその後もフォローアップが続けられた(9、12ヵ月)。

有効率:52% vs. 31%、無失禁日の増加日数:3.1日 vs. 1.7日

 選択基準を満たした206例のうち、136例がNASHA Dx群に、70例が対照群に割り付けられた。治療6ヵ月の時点で便失禁回数が50%以上低下した患者の割合は、NASHA Dx群が52%(71/136例)と、対照群の31%(22/70例)に比べ有意に優れていた(オッズ比:2.36、95%信頼区間:1.24~4.47、p=0.0089)。

 2週間当たりの無失禁日増加の平均日数は、治療6ヵ月ではNASHA Dx群が3.1日(SD 4.05)と、対照群の1.7日(SD 3.50)に比べ有意に高値を示したが、治療3ヵ月では有意な差はみられなかった[2.6日(SD 3.95) vs. 1.9日(SD 3.46)、p=0.1880]。

 6ヵ月間の治療により、NASHA Dx群では128件の治療関連有害事象(直腸痛14%、発熱8%、直腸出血7%、下痢5%、注射部位の出血5%など)が認められ、そのうち重篤な有害事象は2件(直腸膿瘍1例、前立腺膿瘍1例)であった。

 著者は、「経肛門的粘膜下NASHA Dx注入療法は便失禁に対する治療として有効である」と結論し、「この低侵襲性の治療法は、今後、患者選択基準、至適な用量と注射部位、長期予後が改善されれば、さらに高い支持を得る可能性がある」と指摘している。

(菅野守:医学ライター)