新たな胸痛評価法により、低リスク患者の早期退院が可能に

提供元:ケアネット

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公開日:2011/04/07

 



ニュージーランド・クライストチャーチ病院のMartin Than氏らが新たに開発したADPと呼ばれる胸痛評価法は、主要有害心イベントの短期的なリスクが低く、早期退院が相応と考えられる患者を同定可能なことが、同氏らが行ったASPECT試験で示された。胸痛を呈する患者は救急医療部の受診数の増加を招き、在院時間の延長や入院に至る可能性が高い。早期退院を促すには、胸痛患者のうち主要有害心イベントのリスクが短期的には低いと考えられる者を同定する必要があり、そのためには信頼性が高く、再現性のある迅速な評価法の確立が求められている。Lancet誌2011年3月26日号(オンライン版2011年3月23日号)掲載の報告。

ADPの有用性を検証する前向き観察試験




ASPECT試験の研究グループは、急性冠症候群(ACS)が疑われる胸痛症状を呈し、救急医療部を受診した患者の評価法として「2時間迅速診断プロトコール(accelerated diagnostic protocol:ADP)」を開発し、その有用性を検証するプロスペクティブな観察試験を実施した。

アジア太平洋地域の9ヵ国(オーストラリア、中国、インド、インドネシア、ニュージーランド、シンガポール、韓国、台湾、タイ)から14の救急医療施設が参加し、胸痛が5分以上持続する18歳以上の患者が登録された。ADPは、TIMI(Thrombolysis in Myocardial Infarction)リスクスコア、心電図、およびポイント・オブ・ケア検査としてのトロポニン、クレアチンキナーゼ MB(CK-MB)、ミオグロビンのバイオマーカーパネルで構成された。

主要評価項目は、初回胸痛発作(初回受診日を含む)から30日以内の主要有害心イベントの発現とした。主要な有害心イベントは、死亡、心停止、緊急血行再建術、心原性ショック、介入を要する心室性不整脈、介入を要する重度の心房ブロック、心筋梗塞(初回胸痛発作の原因となったもの、および30日のフォローアップ期間中に発現したもの)と定義した。

感度99.3%、特異度11.0%、陰性予測値99.1%




3,582例が登録され30日間のフォローアップが行われた。この間に、421例(11.8%)で主要有害心イベントが発現した。

ADPにより352例(9.8%)が低リスクで早期退院が適切と判定された。そのうち3例(0.9%)で主要有害心イベントが発現し、ADPの感度は99.3%(95%信頼区間:97.9~99.8)、陰性予測値は99.1%(同:97.3~99.8)、特異度は11.0%(同:10.0~12.2)であった。

著者は、「この新たな胸痛評価法は、主要有害心イベントの短期的なリスクがきわめて低く早期退院が相応と考えられる患者を同定した」と結論し、「ADPを用いれば、全体の観察期間および胸痛による入院期間が短縮すると考えられる。ADPの実行に要する個々のコンポーネントは各地で入手可能であるため、健康サービスの提供に世界規模で貢献する可能性がある。より特異度の高い評価法のほうが退院数を増加させ得るが、安全性重視の観点から感度に重きを置くべきであろう」と指摘する。

(菅野守:医学ライター)