クリーブランドクリニック・ゲノム部門(アメリカ)のAttila Patocs氏らは、以前の研究で腫瘍性胸部上皮細胞とその周囲の間質細胞で高頻度に見出された癌抑制遺伝子TP53の変異に着目。この遺伝子が乳癌の転帰に寄与しているとの仮説を立て、「遺伝性」および「散発性」乳癌患者それぞれにおけるゲノムワイド解析、臨床的・病理学的所見との関連解析を行った。NEJM誌2007年12月20日号に掲載。
遺伝性・散発性乳癌患者のTP53変異に着目
研究対象は遺伝性乳癌患者43例と散発性乳癌患者175例。それぞれの腫瘍性上皮細胞と間質細胞のDNAにおける
TP53変異の解析、ヘテロ接合消失、アレル不均衡に関するゲノム・ワイドな解析を行った。
またコンパートメント特有のパターンが見られないか、その際の
TP53の状態、ヘテロ接合消失、アレル不均衡、臨床的および病理学的所見との関連についても解析が行われた。
リンパ節転移との関連は「散発性」においてのみ
「遺伝性」および「散発性」乳癌患者のサンプルいずれにおいても
TP53変異と、ヘテロ接合消失およびアレル不均衡増幅との関連が見られたが、変異の頻度は「遺伝性」のほうが「散発性」より高かった(74.4%対42.3%、P=0.001)。
TP53変異と関連を示すマイクロサテライト遺伝子座は、「遺伝性」乳癌患者の間質細胞では1個(2p25.1)だったが、「散発性」では66個あった。
また「散発性」の上皮細胞ではみられなかったが間質細胞では、
TP53変異と局所リンパ節転移との関連も見いだされた(P=0.003)。「散発性」の間質細胞では
TP53変異がない場合でも、ヘテロ接合消失とアレル不均衡の増幅に関係する5つの遺伝子座の特異的な組み合わせがある場合、リンパ節転移との関連が認められた。こうした関連は「遺伝性」の臨床的および病理学的所見では全く見いだされなかった。
研究者らは、「散発性乳癌では、間質細胞のヘテロ接合消失またはアレル不均衡は、
TP53変異、局所リンパ節転移と関連しているが、遺伝性乳癌ではこうした関連はみられなかった」と結論づけている。
(武藤まき:医療ライター)