腎/肝移植患者では、サイトメガロウイルス糖蛋白Bワクチンの接種で誘導された液性免疫によってウイルス血症が減少することが、イギリス・ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのPaul D Griffiths氏らの検討で示された。サイトメガロウイルスによるウイルス血症がみられる同種移植患者では、ガンシクロビル(商品名:デノシン)あるいはそのプロドラッグであるバルガンシクロビル(同:バリキサ)の投与によりウイルスに起因する肝炎、肺炎、胃腸炎、網膜炎などの末梢臓器障害の予防が可能である。末梢臓器障害の発現はウイルス量と関連し、ウイルス量は既存の自然免疫の影響を受けるが、ワクチンで誘導された免疫にも同様の作用を認めるかは不明だという。Lancet誌2011年4月9日号掲載の報告。
糖蛋白Bワクチンの免疫原性を評価する無作為化第II相試験
研究グループは、イギリス・ロンドンのRoyal Free Hospitalの腎臓あるいは肝臓の移植術待機患者を対象に、MF59アジュバント添加サイトメガロウイルス糖蛋白Bワクチンの、安全性と免疫原性を評価する無作為化プラセボ対照第II相試験を実施した。
妊婦、直近3ヵ月以内に血液製剤(アルブミンを除く)の投与を受けた患者、多臓器の同時移植患者は除外した。サイトメガロウイルス血清反応陰性の70例と陽性の70例が、MF59アジュバント添加サイトメガロウイルス糖蛋白Bワクチンあるいはプラセボを接種する群に無作為に割り付けられた。
接種はベースライン、1ヵ月後、6ヵ月後に行い、移植が実施された場合はそれ以上の接種は行わないこととし、定量的real-time PCR法で血液サンプル中のウイルスDNAを解析した。サイトメガロウイルスのゲノムが200/mL以上(全血)の場合にウイルス血症と定義し、3,000/mL以上に達した患者にガンシクロビル5mg/kgの1日2回静注投与(あるいはバルガンシクロビル900mg 1日2回経口投与)を行い、2回の血液サンプルの検査でウイルスDNAが測定限界以下になるまで継続することとした。
安全性と免疫原性の2つを主要エンドポイント(coprimary endpoints)とし、両群とも1回以上の接種を受けた患者についてintention-to-treat解析を行った。
ワクチン群で、糖蛋白B抗体価が有意に上昇
ワクチン群に67例(血清反応陽性例32例、陰性例35例)が、プラセボ群には73例(38例、35例)が割り付けられ、全例が評価可能であった。実際に移植を受けたのはワクチン群が41例(18例、23例)、プラセボ群は37例(22例、15例)であった。
ワクチン群では、血清反応陰性例、陽性例ともに糖蛋白B抗体価がプラセボ群に比べ有意に上昇した。すなわち、血清反応陰性例の幾何平均抗体価(GMT)は、ワクチン群12,537(95%信頼区間:6,593~23,840)、プラセボ群86(同:63~118)、陽性例のGMTはそれぞれ118,395(同:64,503~217,272)、24,682(同:17,909~34,017)であり、いずれも有意差を認めた(いずれもp<0.0001)。
移植後にウイルス血症を発症した患者では、糖蛋白B抗体価がウイルス血症の期間と逆相関を示した(p=0.0022)。血清反応陽性ドナーから移植を受けた血清反応陰性の移植患者では、ワクチン群がプラセボ群よりも、ウイルス血症の期間(p=0.0480)、ガンシクロビル治療日数(p=0.0287)が有意に短かった。
著者は、「移植後の細胞性免疫の抑制を背景にサイトメガロウイルス症が起きるが、サイトメガロウイルス糖蛋白Bワクチンで誘導された液性免疫によってウイルス血症が減少することが示された」と結論し、「ワクチン群で有意に増加した有害事象は、事前に健常ボランティアで確認したとおり、注射部位の疼痛のみであった。それゆえ、本ワクチンは移植患者においてさらなる検討を進める価値がある」としている。
(菅野守:医学ライター)