テロや紛争に起因するPTSD症状に悩まされる人々に対し、認知療法が有効であるとの報告が、英国ウルスター大学Michael Duffy氏らの研究グループによって寄せられた。宗教対立から長年にわたり無差別テロなどが日常化してきた北アイルランドで行われた無作為化臨床試験で、認知療法を行った患者群に大幅な改善が見られた結果を受けての報告。本論文の詳細は、BMJ誌6月2日号に掲載された。
北アイルランドのNICTT基点に行われた無作為化臨床試験
テロに起因する精神的外傷(トラウマ)に対する効果的な治療法はほとんど報告されていない。Duffy氏らは、テロや紛争を背景要因とするPTSD症状に苦しむ住民の多い北アイルランドで、PTSDに対する認知療法の有効性を無作為化臨床試験で検証した。
対象者は、PTSDに苦しむ人々に、認知療法のプログラムを提供することを目的に設立されたNICTT(The Northern Ireland Centre for Trauma and Transformation)に紹介されてきた患者の中から、主としてテロや紛争に起因する慢性PTSDの患者58人(中央値5.2年、3ヵ月から32年)を選定し、ただちに認知療法を行う群と12週待ちの待機群に振り分けた。治療群には平均5.9セッション、必要に応じてさらに2セッションの治療プログラムが行われた。
患者スコア、エフェクトサイズとも大幅改善示す
主要評価項目はPTSDスケールおよびベック抑うつ評価尺度を用い、副次評価項目にSDS(Sheehan disability scale)の労働・社会生活面(労働障害、社会生活障害、家庭生活障害)を用いてスコアを判定。
12週間後に行った判定では、治療群と待機群では、PTSDスコアでは平均差9.6(95%信頼区間3.6-15.6)、ベック抑うつ評価尺度では同10.1(同4.8-15.3)、自己申告による労働・社会生活面への影響については同1.3(同0.3-2.5)といずれも大幅な改善が認められた。また、治療前後のエフェクトサイズについても、PTSD1.25、抑うつ1.05、労働・社会生活面1.17と、あらかじめ設定した「large」(0.8以上)に該当する変化が見られた。対照群にはまったく変化が見られなかったこと、さらに追跡調査の結果などとも合わせて、認知療法はテロや紛争に起因するPTSDに効果的な治療法であると結論づけている。
(武藤まき:医療ライター)