スポーツ外傷防止には、予防教育とサーベイランスシステムが有益かつ必要であるとの報告を、オーストラリアラグビー協会のKenneth L Quarrie氏らが行った。同協会が2001年より導入した「RugbySmartプログラム」以後、プレー中のスクラムに起因する脊髄損傷が大幅に減少しているとのデータを踏まえての報告。本論文の詳細は、BMJ誌6月2日号に掲載された。
ニュージーランドで全国的に導入された「RugbySmartプログラム」
テロに起因する精神的外傷(トラウマ)に対する効果的な治療法はほとんど報告されていない。Duffy氏らは、テロや紛争を背景要因とするPTSD症状に苦しむ住民の多い北アイルランドで、PTSDに対する認知療法の有効性を無作為化臨床試験で検証した。
オーストラリアラグビー協会では2001年より、「RugbySmartプログラム」を全国的に導入している。同プログラムは、ニュージーランドのすべてのラグビー・コーチおよびレフェリーが受講することを義務づけられており、ラフプレーでのフィジカルコンディショニング、外傷マネジメント、安全テクニックについて、プレーヤーに教育する手法を教授するものである。
Quarrie氏らはプログラムの効果を、重篤な脊髄損傷の頻度に着目して、ニュージーランドラグビー協会傘下の全プレーヤーを対象に検証した。
重篤な脊損は事前予測18.9に対し8件に
プログラム導入以降の2001~2005年の5年の間に報告された、身体障害帰結の重篤な脊髄損傷発生件数は8件。1976以降5年ごとに見た発生件数と比べると大幅に減少しており、従前のデータから予測された18.9の値も大きく下回っていた。また8件のうち、スクラムに起因するのは1件のみ。予測値は9.0で明らかに少なかったとしている。スクラム起因の脊髄損傷は、1976~2000年には48%(33/69)を占めていたが、プログラム導入以後の5年では12.5%(1/8)だった。7件については、スクラム以外のプレー(タックル、ラック、モール)起因で、予測値は9.0だった。
Quarrie氏らは、プログラム導入と脊髄損傷の減少時期とが一致しており、その要因はスクラム起因の脊髄損傷が減ったこと、プログラムがスクラム以外のプレーにどの程度影響があったのかは不明としながらも、本研究は、スポーツ外傷の予防教育プログラムの有益性、およびその効果を評価する包括的なサーベイランスシステムの必要性を例示するものだと述べている。
(武藤まき:医療ライター)