男性ホルモンの一種であるテストステロンは、年齢とともに有意に減少することから、テストステロンの補充が老化に対してプラスに働くと考えられている。本論文は、テストステロン濃度が低下した高齢男性に対するテストステロン補充療法の効果に関する臨床試験の報告。運動機能、認知機能、骨密度、体組成、血漿脂質、QOL、安全性が調べられた。JAMA誌2008年1月2日号より。
テストステロン160mg/日を60日間投与
試験を行ったのはユトレヒト大学医療センター(オランダ)のMarielle H. Emmelot-Vonk氏らの研究グループ。二重盲検無作為化プラセボ対照試験で、テストステロン濃度が13.7nmol/L未満に低下した60~80歳の健常男性237例を対象に、2004年1月から2005年4月にかけて実施した。対象者は、テストステロン(アンドリオール)を1日2回(80mg/回)投与群とプラセボ投与群にランダムに割り付けられ、6ヵ月間投与を受けた。
主要評価項目は、運動機能(スタンフォード式健康評価質問票、timed get up and go test、握力、脚伸筋力)、認知機能、骨密度(股関節と腰椎)、体組成、メタボリック危険因子(空腹時血漿脂質、グルコース、インスリン)、QOL(SFH36とQLSMによる)ならびに安全性指標(血清前立腺特異抗原濃度、前立腺体積、国際排尿症状スコア、血清クレアチニン濃度、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ:AST、アラニンアミノトランスフェラーゼ:ALT、γ-グルタミルトランスフェラーゼ:GGT、ヘモグロビン、ヘマトクリット)。
身体機能、認知機能、QOLに有意な変化みられず
解析対象となった207例のうち、テストステロン投与群はプラセボ投与群と比較して、体脂肪は減少したが除脂肪体重が増大した。しかし、除脂肪体重増によって運動機能や筋力がアップすることはなく、認知機能と骨密度にも変化はみられなかった。
インスリン感受性は向上したが、HDLコレステロールは減少。試験終了時には、テストステロン投与群の47.8%、プラセボ投与群の35.5%にメタボリックシンドロームがみられた(P=0.07)。QOLに関しては、ホルモン関連のQOL指標がアップした以外は変化がなかった。前立腺の安全を脅かす因子は検出されていない。
これらから研究グループは、テストステロンが低下した高齢男性へのテストステロン補充療法は、除脂肪体重の増加、代謝面の複合的な影響がみられた以外は、身体機能あるいは認知機能への影響は確認できなかったと結論づけている。
(朝田哲明:医療ライター)