最近20年間で、米国非農村部にある病院の救急部門のうち27%が閉鎖しており、営利病院や病院激戦地にある病院、セーフティネット病院で救急部門の閉鎖リスクが高いことが明らかにされた。米国・カリフォルニア大学救急医療部門のRenee Y. Hsia氏らの調査結果による。米国では1998~2008年の間、特に公的保険加入者や無保険者の患者の救急部門受診者が増大する一方、病院救急部門の減少が伝えられていたが、その閉鎖のリスク要因は明らかにされていなかった。Hsia氏らは、病院救急部門は連邦法により、患者の支払能力にかかわらず医療を必要とする者を受け入れるよう義務付けられているが、米国ヘルスケアを支配する“市場の原理”により弱体化しているのではないかと考え調査・分析を行った。JAMA誌2011年5月18日号掲載より。
非農村部病院の救急部門、2,446から1,779ヵ所へ減少
Hsia氏らは、米国病院協会(AHA)の報告書と米国高齢者向け公的医療保険「メディケア」の病院費用報告書を基に、1990~2009年の期間中に救急部門を備えていた病院について追跡した。
救急部門の閉鎖に関するリスク因子として、病院特性(15マイル範囲内の他病院と比べて退院のメディケイド率が倍以上の病院として定義されるセーフティネット病院、営利性、教育性、組織メンバー、救急部門規模、ケアミックス)、群人口特性(人種、貧困度、無保険率、高齢者率)、市場因子(所有者構成、利益率、競合病院間での位置づけ、他救急部門の存在)を調べ、閉鎖リスクとの関連を分析した。
結果、1990~2009年にかけて、米国非農村部病院の救急部門は、閉鎖が1,041ヵ所、新設が374ヵ所で、総計では2,446ヵ所から1,779ヵ所へと27%減少していた。
閉鎖リスク、営利病院1.8倍、競争激戦地の病院1.3倍、セーフティネット病院1.4倍
都市部の急性期病院2,814ヵ所、延べ3万6,335病院・観察年を対象とした分析の結果では、1990~2007年の18年間で、営利病院、利益率が低い病院ほど、救急部門を閉鎖する傾向が認められた。営利病院では閉鎖率26%、非閉鎖率16%で、ハザード比は1.8(95%信頼区間:1.5~2.1)、利益率が最も低い四分位範囲の病院では閉鎖率36%、非閉鎖率18%で、ハザード比は1.9(同:1.6~2.3)だった。
競争の激しい地域にある病院の閉鎖リスクは有意に高く、閉鎖率34%、非閉鎖率17%、ハザード比1.3(同:1.1~1.6)だった。セーフティネット病院は、同10%、6%、ハザード比1.4(同:1.1~1.7)、貧困層の患者の割合が高い病院は、同37%、31%、ハザード比1.4(同:1.1~1.7)だった。
(當麻あづさ:医療ジャーナリスト)