NV1FGFによる血管新生療法、重症下肢虚血患者の大切断術、死亡を低減せず

提供元:ケアネット

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公開日:2011/06/16

 



重症下肢虚血患者に対する非ウイルス性ヒト線維芽細胞増殖因子1発現プラスミド(NV1FGF)による血管新生療法は、下肢切断術施行および死亡を低減しないことが、英国Ninewells病院のJill Belch氏らが実施したTAMARIS試験で示され、Lancet誌2011年6月4日号(オンライン版2011年5月31日号)で報告された。欧米では最大で約2,000万人が末梢動脈疾患に罹患し、そのうち2~5%が最も重篤な病態である重症下肢虚血に至るという。線維芽細胞増殖因子1(FGF1)は血管の新生を調節、促進し、血管内皮細胞の遊走、増殖、分化を活性化することで既存の血管からの毛細血管の発生を促すことが知られている。

下肢虚血患者に対するNV1FGFのプラセボ対照無作為化第III相試験




TAMARIS試験は、血行再建術が非適応の重篤な下肢虚血患者に対する血管新生療法としてのNV1FGFの有用性を評価するプラセボ対照無作為化第III相試験である。

2007年12月1日~2009年7月31日までに、30ヵ国171施設から、下肢の虚血性潰瘍あるいは軽度の皮膚壊疽がみられ、血行動態に基づく選択基準(足首血圧<70mmHg、爪先血圧<50mmHgあるいはその両方、治療足の経皮的酸素分圧<30mmHg)を満たした患者525例が登録され、NV1FGF(0.2mg/mL、筋注)を投与する群あるいはプラセボ群に1対1の割合で無作為に割り付けられた。治療は2週ごとに4回(第1、15、29、43日)実施され、1回につき治療足に対し8回の注射が行われた。

主治医、患者、研究チームには治療割り付け情報は知らされなかった。評価項目は大切断術(足首より上部での切断)の施行あるいは全死因死亡までの期間および発生率とし、Cox比例ハザードモデルによる多変量解析を用いたintention-to-treat解析を行った。

有効な治療法開発が課題として残る




V1FGF群に259例が、プラセボ群には266例が割り付けられ、全例が解析の対象となった。全体の平均年齢70歳(50~92歳)、男性が365例(70%)、糖尿病患者は280例(53%)、冠動脈疾患既往歴のある患者は248例(47%)であった。

大切断術施行あるいは死亡の割合は、NV1FGF群が33%(86/259例)、プラセボ群は36%(96/266例)であり、有意な差は認めなかった(ハザード比:1.11、95%信頼区間:0.83~1.49、p=0.48)。大切断術の施行や死亡までの期間にも差はみられなかった。

虚血性心疾患(NV1FGF群10% vs. プラセボ群10%、p=1.00)、悪性新生物(3% vs. 2%、p=0.55)、網膜疾患(4% vs. 6%、p=0.42)、腎機能障害(7% vs. 6%、p=0.49)の発現率も、両群で同等であった。

著者は、「重症下肢虚血患者に対するNV1FGFによる血管新生療法は切断術施行および死亡の低減に有効とのエビデンスは得られなかった」と結論し、「これらの患者に対する有効な治療法の開発は大きな課題として残されている」と指摘している。

(菅野守:医学ライター)