重度大動脈弁狭窄症で高リスクの患者における大動脈弁置換術の手技について、経カテーテル法と開胸術とを比較した無作為化試験の結果、主要エンドポイントとした1年生存率は同程度であることが示された。ただし周術期のリスク(術後30日時点での重大脳卒中、重大血管合併症の発生)について重大な差が認められたという。米国・コロンビア大学付属ニューヨーク長老派教会病院のCraig R. Smith氏らによる報告で、NEJM誌2011年6月9日号(オンライン版2011年6月5日号)で発表した。これまで、外科的手術不適応の同患者に対して、経カテーテル法による大動脈弁置換術が死亡率を低下することが示されていたが、外科的手術適応の患者において両手技を直接比較する無作為化試験は行われていなかった。
699例を追跡、主要エンドポイントは術後1年時点の全死因死亡率
試験は2007年5月~2009年8月にかけて、25施設(米国22、カナダ2、ドイツ1)から699例の重度大動脈弁狭窄症で高リスクの外科的手術適応の患者が登録されて行われた。
被験者は無作為に、大動脈弁置換術をバルーン拡張型ウシ心膜弁を用いた経カテーテル法(経大腿、経心尖アプローチのいずれか)にて受ける群と、開胸術にて受ける群とに割り付けられ、1年以上(中央値1.4年)追跡された。
主要エンドポイントは、術後1年時点の全死因死亡率とした。また本試験は、経カテーテル置換術は開胸置換術に対し非劣性であるとの主要仮説を立て検討された。非劣性の定義は、死亡率群間差について95%信頼区間上限値が7.5%未満である場合とした。
死亡率は同程度だが、周術期のリスク発生頻度が経カテーテル群で高い
結果、全死因死亡率について、術後30日時点では経カテーテル群3.4%、開胸群6.5%であった(P=0.07)。1年時点ではそれぞれ24.2%、26.8%であり(P=0.44)、経カテーテル群が2.6ポイント低かった。同95%信頼区間上限値は3.0ポイントだった(非劣性についてのP=0.001)。
一方、重大脳卒中の発生率について、術後30日時点で経カテーテル群3.8%、開胸群2.1%で(P=0.20)、1年時点ではそれぞれ5.1%、2.4%であった(P=0.07)。
また、術後30日時点での重大血管合併症の発生率は、経カテーテル群で有意に高かった(11.0%vs. 3.2%、P<0.001)。
なお術後頻度の高かった有害事象は、重大出血(経カテーテル群9.3%vs. 開胸群19.5%、P<0.001)、心房細動の新規発生(同8.6% vs. 16.0%、P=0.006)などだった。
経カテーテル群のほうが症状改善が認められた患者が、30日時点では多くいたが、1年時点では両群間で有意差は認められなかった。
Smith氏は「結論として、両手技の30日時点、1年時点の死亡率、症状改善は同程度であった。本研究の結果、経カテーテル法は、慎重に選定した高リスクの重度大動脈弁狭窄症患者において選択肢と成り得ることが示された。長期追跡結果が得られていない現状では、両手技のリスクの違いやあまり知られていないリスク、特に脳卒中のリスクについて、釣り合わせをしたうえで、どちらの手技が推奨されるかを検討しなくてはならない」と報告し、「両手技の臨床ベネフィットについてさらなる無作為化試験が求められる」とまとめている。
(武藤まき:医療ライター)