喫煙に起因する死亡者数は、2005年の540万人から2015年には640万人、2030年には830万人に達すると予測されている。Lancet誌は慢性疾患による死亡率を毎年2%ずつ低減させるという大きな目標の実現を呼び掛けているが、その主要原因である喫煙率を抑制するには、世界中が一致団結して努力する必要がある。オーストラリアのクイーンズランド大学のCoral E. Gartner氏らは、紙巻きタバコの害を低下させるとの指摘があるスウェーデン製の無煙の嗅ぎタバコであるスヌース(snus、上唇と歯茎の間に挟んで使用する)に着目、その集団レベルの健康増進効果を評価するための疫学研究を実施した。Lancet誌6月16日号にその結果が報告された。
禁煙者とスヌース切り替え者の平均余命はほとんど同じ
Gartner氏は、オーストラリアにおけるスヌースによる集団レベルの健康増進効果を評価するために、多次元生命表(multistate life table)を用いて喫煙未経験者およびスヌースへの切り替えを含む喫煙者の健康調整平均余命について検討した。また、スヌース使用率が異なる喫煙者、元喫煙者、喫煙未経験者が集団レベルの健康被害に及ぼす影響について評価を行った。
喫煙未経験者と喫煙者の健康調整平均余命の差は、男性では2.4~5.0年、女性の場合は1.9~4.1年であった。喫煙未経験者と喫煙未経験のスヌース使用者の差は、男性0.2~0.5年、女性0.2~0.3年とわずかであった。同様に、タバコをやめた禁煙者とスヌースに切り替えた喫煙者の健康調整平均余命はほとんど差を認めず、禁煙および切り替えの時期の影響のほうが大きかった。
スヌースへの切り替えが集団レベルの健康状態にベネフィットをもたらす
紙巻きタバコよりもスヌースの使用量を増やした喫煙者は、本質的な健康の増進効果を実感しているという。
Gartner氏は「常習的喫煙者が十分な量のスヌースを使用すれば、集団レベルの健康状態に本質的なベネフィットがもたらされるだろう。現行の制限を緩和すれば、より多くの本質的ベネフィットが生み出されると考えられる」と指摘し、「ベネフィットの大きさは、どれだけの常習的喫煙者がスヌースに切り替えるかにかかっている」と述べている。
(菅野 守:医学ライター)