イラクにおける自爆攻撃事件による死亡者数は、連合軍兵士よりもイラク人の一般市民で有意に多く、負傷者が死亡する確率は成人よりも子どもで高いことが、イギリス・キングス・カレッジ・ロンドンのMadelyn Hsiao-Rei Hicks氏らの調査で示された。イラクでは、自爆攻撃が重大な保健医療上の問題となっている。1980~2003年までの研究では、自爆攻撃は国際的テロリズムの中で最も死亡率の高いものであることが示され、2003年以降のイラクにおける自爆攻撃は宗派および反乱組織の戦闘員そのものを大量破壊兵器とみなしているという。Lancet誌2011年9月3日号掲載の報告。
自爆攻撃の犠牲者の実態を調査する記述的研究
研究グループは、2003~2010年にイラクで起きた自爆攻撃によるイラク人の一般市民および連合軍兵士の犠牲者の実態を調査する目的で記述的研究を行った。
2003年3月20日~2010年12月31日までの調査に基づく2つのデータセット(自爆攻撃による連合軍兵士の死亡に関する報告と、武力行為によるイラク人の一般市民の死傷に関する報告)に記載されたイラクにおける自爆攻撃事件の犠牲者について解析した。攻撃のタイプ(徒歩、自動車を利用)や死傷者の身元(性別、年齢など)の情報に基づいて死傷の状況を経時的に解析した。
武力行為による全イラク市民死傷者の19%が自爆攻撃犠牲者
2003~2010年に記録された自爆攻撃事件は1,003件であった。武力行為による全イラク市民死傷者の19%(4万2,928/22万5,789人)を自爆攻撃の犠牲者が占め、そのうち負傷者は26%(3万644/11万7,165人)、死亡者は11%(1万2,284/10万8,624人)であった。
イラク市民の自爆攻撃による負傷対死亡比(injured-to-killed ratio、1人が死亡するのに要する負傷者数、数値が小さいほど負傷が死亡につながりやすいことを示す)は2.5であった。徒歩での自爆攻撃による死亡者は自爆攻撃死亡者全体の43%(5,314/1万2,284人)を占めた。自動車を利用した自爆攻撃で負傷した市民は全負傷市民の40%(1万2,224/3万644人)に上った。
身元の特定が可能であった自爆攻撃による死亡者3,963人のうち、男性が2,981人(75%)、女性が428人(11%)で、子どもは554人(14%)であった。身元が特定された子どもの自爆攻撃死は、一般的な武力行為による死亡よりも有意に多かった(9%、3,669/4万276人、p<0.0001)。
全自爆攻撃における負傷対死亡比は、男性よりも女性で有意に高く(p=0.02)、男性は女性よりも負傷によって死亡につながりやすいことがわかった。子どもの負傷対死亡比は女性(p<0.0001)および男性(p=0.0002)よりも有意に低く、負傷が死亡につながる確率が高いことが示された。
2003~2010年の間に、79件の自爆攻撃によって200人の連合軍兵士が死亡した。1回の自爆攻撃による死亡者数は連合軍兵士よりもイラク人の一般市民のほうが有意に多かった(12 vs. 3人、p=0.004)。
著者は、「自爆攻撃事件による死亡者数は、連合軍兵士よりもイラクの一般市民で有意に多く、一般市民の負傷者が死亡する確率は成人よりも子どもで高かった」と結論している。
(菅野守:医学ライター)