多枝冠動脈疾患の競合的な治療法として、冠動脈バイパス術(CABG)と冠動脈ステント留置術はこれまでにも多くの比較研究が行われてきたが、薬剤溶出性ステントが登場してからは、CABGとの比較研究はほとんど耳にしなくなった。ニューヨーク州立大学オールバニー校公衆衛生部門のEdward L. Hannan氏らによる本研究は、CABGと薬剤溶出性ステント留置術を受けた患者の有害転帰を追跡調査したもので、CABGは依然として薬剤溶出性ステント処置より死亡率が低いだけでなく、心筋梗塞発生率や血行再建術の再施行リスクも低いと報告している。NEJM誌2008年1月24日号より。
二枝・三枝に分け12~27ヵ月間の有害転帰を比較
対象は2003年10月1日から2004年12月31日までの間にニューヨーク州内で、薬剤溶出性ステント留置術あるいはCABGのいずれかを受けた多枝冠動脈疾患患者。患者間の基線危険因子の相違を補正した後、病変部が二枝の患者と三枝の患者に分け、2005年12月31日までに死亡したか、心筋梗塞を再発したか、血行再建術を再施行したかの有害転帰を比較検討した。
死亡率、心筋梗塞再発率、血行再建術再施行率ともCABGが優位
三枝病変患者で、CABG群をステント群と比較すると、死亡に対する補正ハザード比は0.80(95%信頼区間0.65~0.97)で、補正生存率はCABG群の94.0%に対してステント群は92.7%だった(P=0.03)。死亡または心筋梗塞に対する補正ハザード比は0.75(95%信頼区間0.63~0.89)、心筋梗塞から解放された補正生存率はCABG群92.1%に対してステント群は89.7%だった(P<0.001)。
二枝病変患者では、CABG群をステント群と比較した場合の死亡に対する補正ハザード比は0.71(95%信頼区間0.57~0.89)で、補正生存率はCABG群の96.0%に対してステント群は94.6%だった(P = 0.003)。死亡または心筋梗塞に対する補正ハザード比は0.71(95%信頼区間0.59~0.87)で、心筋梗塞から解放された補正生存率は、CABG群の94.5%に対してステント群は92.5%だった(P<0.001)。
以上からHannan氏らは、「二枝・三枝とも多枝病変患者の転帰を比較すると、CABGは依然として薬剤溶出性ステント留置術より死亡率、心筋梗塞再発率とも低く、血行再建術の再施行率も低かった」と結論付けた。
(朝田哲明:医療ライター)