2009年のイギリスにおけるA/H1N1型インフルエンザの流行は軽度のパンデミックであり、従来のサーベイランスシステムではパンデミックの程度を正確に推定するには不十分なことが、イギリスCambridge University Forvie SiteのA M Presanis氏らの調査で示された。2009年のA/H1N1型インフルエンザの流行が当初どの程度と推定されたかは不明であり、後に比較的軽度だが感染の年齢分布が季節性のインフルエンザとは異なることが示唆されている。パンデミックの程度に関する以前の研究では、バイアスの説明が不十分で、不確実性の定量化に関連するエビデンスが包括的に援用されておらず、パンデミックの程度の変化や定期的なサーベイランスシステムの妥当性の評価が含まれていないなどの問題があるという。BMJ誌2011年9月24日号(オンライン版2011年9月8日号)掲載の報告。
2009年のパンデミックの影響を、Bayesian evidence synthesisで評価
研究グループは、2009年のA/H1N1型インフルエンザのパンデミックの影響を評価するために、2010年2月下旬までの2回の流行期における重症化の確率や感染率を推定した。
パンデミックの程度の推定には、2009年6月~2010年2月までにイギリスで実施されたサーベイランスのデータを用い、ベイズ法によるエビデンスの統合解析(Bayesian evidence synthesis)を行った。
イギリス国民全体の感染率は11.2%、5~14歳は29.5%
A/H1N1型インフルエンザの夏の流行期には、推定60万6,100人(95%信頼区間:41万9,300~88万6,300)の症候性の患者のうち3,200人(同:2,300~4,700、0.54%[同:0.33~0.82])が入院し、310人(同:200~480、0.05%[同:0.03~0.08])が集中治療室(ICU)に収容され、90人(同:80~110、0.015%[同:0.010~0.022])が死亡した。
2回目の流行期には、推定135万2,000人(95%信頼区間:82万9,900~280万6,000)の症候性の患者のうち7,500人(同:5,900~9,700、0.55%[同:0.28~0.89])が入院し、1,340人(同:1,030~1,790、0.10%[同:0.05~0.16])がICUに収容され、240人(同:310~380、0.025%[同:0.013~0.040])が死亡した。
感染者の3分の1以上(35%[95%信頼区間:26~45])が症候性であったと推定された。夏の流行期には入院患者の30%(95%信頼区間:20~43)がサーベイランスシステムによって検出されたのに対し、2回目の流行期では20%(同:15~25)にとどまった。
2回の流行期を通じて、イギリス国民の11.2%(95%信頼区間:7.4~18.9)がA/H1N1型インフルエンザに感染したと推定され、5~14歳の推定感染率は29.5%(同:16.9~64.1)に上昇していた。感度分析による感染率は5.9(同:4.2~8.7)~28.4(同:26.0~30.8)%と推算され、2回目の流行期の感染死亡率は0.0027(同:0.0024~0.0031)~0.017(同:0.011~0.024)%と推算された。
著者は、「2009年のA/H1N1型インフルエンザの流行は軽度のパンデミックであったと推察され、就学年齢の子どもの感染率が高かった。特に重症例の把握が不十分であり、現在のサーベイランスシステムの限界が明らかとなった」と結論し、「特に2010~2011年のインフルエンザ流行期における2009年のA/H1N1株の明らかな再流行をふまえると、適切な保健医療施策の情報を伝えるには、パンデミックの程度を早期に確実に推定するシステムの確立が重要なことが浮き彫りとなった」とまとめている。
(菅野守:医学ライター)