心筋梗塞のリスクは、典型的な交通関連の大気汚染物質である直径10μm未満の大気粒子(PM10)と二酸化窒素(NO2)への曝露によって一過性に上昇するものの、時間の経過とともに低下しており、大気汚染による心肺死亡率の上昇には他のメカニズムの影響が大きいことが、英国・ロンドン大学公衆衛生学熱帯医学大学院のKrishnan Bhaskaran氏らの検討によって示唆された。いくつかの大気汚染物質については、日常的な高レベル状態が死亡率の上昇に関連することが示されている。大気汚染が心筋梗塞のリスクに及ぼす影響に関するエビデンスは存在するが、曝露後数時間における短期的な影響を評価した研究はほとんどないという。BMJ誌2011年9月24日号(オンライン版2011年9月20日号)掲載の報告。
大気汚染と心筋梗塞の短期的な関連を評価する地域住民ベースの研究
研究グループは、イングランドとウェールズの15の大都市圏において、大気汚染と心筋梗塞の関連を1時間単位のデータを用いて短期的に評価する地域住民ベースの研究を行った。
Myocardial Ischaemia National Audit Project(MINAP)の臨床データと、UK National Air Quality ArchiveのPM10、オゾン、一酸化炭素(CO)、NO2、二酸化硫黄(SO2)のデータを用い、汚染時間を1~6、7~12、13~18、19~24、25~72時間に分けて解析した。
2003~2006年に心筋梗塞と診断された7万9,288例のデータに基づき、汚染レベルが10μg/m3増加するごとの心筋梗塞リスクの増分を評価した。
PM10、NO2への曝露により、1~6時間後の短期的な心筋梗塞リスクが上昇
単一の汚染物質に関する解析では、PM10およびNO2への曝露により、1~6時間後の短期的な心筋梗塞のリスクが上昇した(10μg/m3増加ごとのリスクの上昇:PM10 1.2%[95%信頼区間:0.3~2.1]、NO2 1.1%[同:0.3~1.8])。この影響は複数汚染物質の解析でも一貫して認められたが、PM10の影響に関するエビデンスはごく弱いものであった(p=0.05)。
中等度の心筋梗塞リスク上昇がみられた汚染物質も、時間の経過とともにそのリスクが低下した。5つの汚染物質のうち、72時間以上にわたって心筋梗塞のリスクを上昇させるものは確認されなかった。
著者は、「PM10とNO2という典型的な交通関連汚染物質による一過性の心筋梗塞リスクの上昇がみられたが、時間の経過とともにリスクは低下していることから、大気汚染によって全体的なリスクが上昇するというよりも、イベントの発生が時間的に前倒しされる(イベント発生の短期的な置き換え)ことが考えられる」とまとめ、「大気汚染が心肺死亡率に及ぼす確固たる影響は、心筋梗塞の急性のリスク上昇によるものではなく、他のメカニズムが関与している可能性がある」と指摘している。
(菅野守:医学ライター)