アメリカでは、高齢患者の3分の1近くが死亡の前年に外科治療を受けていることが、アメリカ・ハーバード公衆衛生大学院のAlvin C Kwok氏らの調査で示された。一般に、治療の量が多いほど優れた治療がもたらされると考えがちだが、終末期医療が活発な地域が必ずしも良好な予後を実現しているわけではない。アメリカでは、終末期の入院や集中治療の運用状況はよく知られているが、この時期の外科治療のパターンはほとんどわかっていなかったという。Lancet誌2011年10月15日号(オンライン版2011年10月6日号)掲載の報告。
終末期外科治療の運用状況を評価する後ろ向きコホート試験
研究グループは、2008年に死亡した65歳以上のメディケア受給者を対象に、終末期の外科治療の運用状況をレトロスペクティブに評価するコホート試験を行った。
死亡前年の入院外科治療を同定して年齢や地域との関連を検討した。死亡前年に入院外科治療を受けた患者の割合(年齢、性別、人種、収入で調整)を終末期外科治療度(end-of-life surgical intensity; EOLSI)と定義し、個々の病院の所在地域ごとにEOLSIスコアを算出した。
外科治療の死亡前年施行率は31.9%、前月18.3%、前週8.0%
2008年に死亡した高齢のメディケア受給者180万2,029人のうち、31.9%(95%信頼区間:31.9~32.0、57万5,596人)が前年に入院外科治療を受けていた。死亡の前の月に外科治療を受けていた患者が18.3%(同:18.2~18.4、32万9,771人)、前の週に受けていた患者は8.0%(同:8.0~8.1、14万4,162人)であった。
前年に外科治療を受けた高齢患者の死亡率は加齢とともに低下する傾向がみられ、80歳の患者の35.3%(95%信頼区間:34.7~35.9、8,858/2万5,094人)から、90歳の患者では23.6%(同:22.9~24.3、3,340/1万4,152人)と、33%の低下が認められた。
EOLSIスコアは、最高34.4(95%信頼区間:33.7~35.1、Munster、インディアナ州)から最低11.5(同:11.3~11.7、Honolulu、ハワイ州)までの幅がみられた。また、人口1人当たりの病床数が多い地域ほどEOLSIスコアが高く(r=0.37、95%信頼区間:0.27~0.46、p<0.0001)、メディケアの総費用が高い地域もスコアが高かった(r=0.50、95%信頼区間:0.41~0.58、p<0.0001)。
著者は、「アメリカでは、死亡の前年に多くの高齢患者が外科治療を受けていた。外科治療の施行率は年齢や地域によってばらつきがみられ、終末期の患者に外科治療を行うことに医療提供者が慎重になっている場合もあることが示唆された」と結論している。
(菅野守:医学ライター)