内リンパ嚢腫瘍(ELSTs)はフォン・ヒッペル‐リンダウ病(網膜小脳血管腫症:VHL)と関連しており、不可逆性の感音難聴(SNHL)や前庭障害の原因になると言われている。しかしその基本的なメカニズムは依然として不明であり、治療の最適なタイミングもわかっていない。アメリカ国立衛生研究所(NIH)のJohn A. Butman氏らのグループは ELSTs と関連する聴覚前庭障害の発生メカニズムを明らかにするため、1990年5月から2006年12月にかけてNIHでVHL患者とELSTs患者を対象に、前向き連続評価を実施。判明した発生メカニズムについて、JAMA誌7月4日号に報告された。
VHL患者の87%で不可逆性感音難聴を確認
この研究では聴覚前庭機能障害の基礎的なメカニズムを明らかにするため、臨床所見と言語病理学的データに、連続磁気共鳴画像法とCT画像法による調査データが関連づけられた。
その結果、VHLで継続治療中の患者35例の38耳(3例の両側性を含む)でELSTs が確認された。7耳(18%)で迷路骨包の腫瘍浸潤で大きな腫瘍を伴っており(P=0.01)、SNHLが確認された(100%)。残りの31耳(82%)では迷路骨包浸潤が確認できなかったが、31耳のうち27耳(87%)で、急激に(14耳; 52%)、あるいは徐々に(13耳; 48%)SNHLが発現していた。残りの4耳は正常聴力だった。
迷路骨包浸潤に関連しない小腫瘍からも病的難聴は起こる
急激にSNHLが発現した14耳のうち11耳(79%;P<0.001)では内迷路出血があったが、徐々にSNHLが現れたおよび正常聴力だった17耳では内迷路出血は見られなかった。また腫瘍サイズとSNHL(P=0.23)および前庭障害(P=0.83)には関連性が見られなかった。
Butman氏らは、ELSTsと関連のあるSNHLや前庭障害は、腫瘍に関連した内迷路出血による場合は急激に起き臨床所見も見いだされるが、内リンパ水腫症による場合もあり知らないうちに起きている場合もあると結論。これら発生メカニズムからすると、迷路骨包浸潤と関係しない小さな腫瘍でもSNHLは起こり得ると警告した。
(朝田哲明:医療ライター)