患者幹細胞を播種した人工気道の移植に成功

提供元:ケアネット

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公開日:2011/12/22

 



患者の自己幹細胞を播種したナノ複合材料で組織工学的にテーラーメードされた人工気道の移植に、スウェーデン・カロリンスカ研究所のPhilipp Jungebluth氏らが成功した。気管腫瘍患者の多くが診断時には切除不能な大きさに達しており、5年生存率は約5%と予後不良だが、安全な気管の再建は困難なため切除可能な場合でも腫瘍の完全切除率は60%に満たないという。同氏らは、2008年に患者の幹細胞を播種したドナー気管の移植を行っているが、サイズが合わないなどの限界があったという。Lancet誌2011年12月10日号(オンライン版2011年11月24日号)掲載の報告。

自己骨髄単核細胞播種ナノ複合材料製の人工気道で置換




研究グループは、自己幹細胞を播種したナノ複合材料を用いて人工的に作製された気管支移植について報告した。

対象は36歳の男性で、遠位気管と主気管支の原発がんに対する減量手術と放射線療法を受けたのち再発した。腫瘍の全摘除術施行後に気道を、事前にバイオリアクターを介し36時間かけて自己骨髄単核細胞を播種したバイオ人工ナノ複合材料で置換した。

術後は、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)フィルグラスチム10μg/kgとエポエチンβ 4万UIを14日間投与した。フローサイトメトリー、電子顕微鏡、共焦点顕微鏡法を用いたエピジェネティクス検査、多重化サイトカイン検査、miRNA検査、遺伝子発現解析を実施した。

合併症、症状、腫瘍の発現は認めず




自己幹細胞を再播種しバイオリアクター処置したスキャホールド(人工骨格)に、細胞外マトリックス様の被膜およびCD105陽性細胞を含む増殖性細胞を確認した。合併症は認めず、移植後5ヵ月にわたり症状も腫瘍も発現しなかった。

術後、間葉系間質細胞表現型の増加を示す末梢細胞の動員やエポエチン受容体のアップレギュレーション、抗アポトーシス遺伝子、バイオマーカー(miR-34、miR-449)が検出された。これらの知見を再生関連血漿因子の増加と考え合わせると、幹細胞のホーミングや細胞媒介性創傷修復、細胞外マトリックスのリモデリング、移植片の新血管形成が強く示唆された。

著者は、「テーラーメードのバイオ人工スキャホールドは、複雑な気道欠損の置換に使用可能である」と結論し、「バイオリアクターによる自己幹細胞の再播種処置や、薬理学的に誘導された部位特異的で移植片特異的な再生能と組織防御能が、良好な臨床的アウトカムの重要な因子となる」と指摘している。
(菅野守:医学ライター)