腸骨大腿静脈の急性深部静脈血栓症(DVT)の治療では、低分子量ヘパリンやワルファリンによる標準的な抗凝固療法に血栓溶解薬を用いたカテーテル血栓溶解療法(CDT)を併用すると、標準治療単独に比べ血栓後症候群(PTS)の発生率や開存率が有意に改善することが、ノルウェー・オスロ大学病院のTone Enden氏が行ったCaVenT試験で示された。DVTに対する従来の抗凝固療法は、血栓の拡大や再発の予防には有効だが、血栓そのものは溶解させず、多くの患者がPTSを発症するという。Lancet誌2012年1月7日号(オンライン版2011年12月13日号)掲載の報告。
カテーテル血栓溶解療法の併用効果を評価する無作為化対照比較試験
CaVenT(Catheter-directed Venous Thrombolysis)試験の研究グループは、血栓溶解薬t-PA(アルテプラーゼ)を用いたCDTのPTS抑制効果を評価する非盲検無作為化対照比較試験を実施した。
ノルウェー南東部地域の20施設から、腸骨大腿静脈の初回DVTの症状発症後21日以内の18~75歳の患者が登録された。これらの患者が、標準治療のみを行う群あるいは標準治療+CDTを施行する群に無作為化に割り付けられた。両群とも、24ヵ月間の弾性ストッキング(クラスII)の着用が指導された。
標準治療は、国際標準化比(INR)2.0~3.0を目標に、低分子量ヘパリン(ダルテパリン、エノキサパリン)とワルファリンを投与後にワルファリンを単独投与した。
CDT群は、低分子量ヘパリンを単独投与し、CDTの8時間前までには投与を中止してCDTを行い、CDT終了1時間後からINR 2.0~3.0を目標に低分子量ヘパリンとワルファリンを投与した。CDTは超音波ガイド下に膝窩静脈からカテーテルを挿入し、血栓部位にアルテプラーゼを最長で96時間投与した(最大用量:20mg/24時間)。
24ヵ月後のVillaltaスコアによるPTSの発生率および6ヵ月後の腸骨大腿静脈の開存率の評価を行った。
24ヵ月PTS発生率:55.6% vs. 41.1%、6ヵ月開存率:47.4% vs. 65.9%
2006年1月~2009年12月までに209例が登録され、標準治療単独群に108例が、CDT群には101例が割り付けられた。24ヵ月のフォローアップ終了時に、189例[90%、標準治療単独群99例(平均年齢50.0歳、女性38%)、CDT群90例(同:53.3歳、36%)]から臨床データが得られた。
24ヵ月の時点におけるPTSの発生率は、標準治療単独群の55.6%(55例)に対しCDT群は41.1%(37例)と有意に低下した(p=0.047)。PTS発生の絶対リスク減少率は14.4%、PTSの発生を1例抑制するのに要する治療数(NNT)は7であった。
6ヵ月後の腸骨大腿静脈の開存率は、標準治療単独群の47.4%(45例)に比べCDT群は65.9%(58例)と有意に改善した(p=0.012)。
CDT関連の出血が20例でみられ、そのうち3例が大出血で、5例は臨床的に意義のある出血だった。
著者は、「重度の近位DVTのうち出血リスクが低い患者にはCDTの追加を考慮すべき」と指摘している。
(菅野守:医学ライター)