リチウム治療は、尿濃縮能の低下、甲状腺機能低下症、副甲状腺機能亢進症、体重増加のリスクを増大させるが、腎機能には臨床的に重大な影響を及ぼさないことが、英国・オックスフォード大学のRebecca F McKnight氏らの検討で示された。リチウム(商品名:リーマスほか)は気分障害の有効な治療薬として広範に使用されている。リチウムの安全性への関心は高いが、有害事象のエビデンスに関する適正な統合解析は行われていないという。Lancet誌2012年2月25日号(オンライン版2012年1月20日号)掲載の報告。
リチウムの毒性プロフィールをメタ解析で評価
研究グループは、臨床的に有益と考えられるリチウムの毒性プロフィールについて、系統的なレビューとメタ解析を行った。
オンラインデータベース、専門誌、文献リスト、教科書、学術会議の抄録を検索し、気分障害でリチウムを投与された患者に関する無作為化対照比較試験、コホート試験、症例対照試験、症例報告のエビデンスを収集した。
主要評価項目は、腎、甲状腺、副甲状腺の機能のほか、体重の変化、皮膚や毛髪の障害、催奇形性などとした。
先天性奇形への影響は不明、治療中は血中カルシウム濃度の測定を
385試験が解析の対象となった。糸球体濾過量は平均で6.22mL/分低下し[95%信頼区間(CI):-14.65~2.20、p=0.148]、尿濃縮能は正常上限値の15%の低下を示した(加重平均差:-158.43mOsm/kg、95%CI:-229.78~-87.07、p<0.0001)。
リチウムは腎不全のリスクを増大させる可能性があるが、絶対リスクは小さかった[腎機能代替療法を要した患者は0.5%(18/3、369例)]。プラセボに比べ、リチウムは甲状腺機能低下症の発生率を有意に増加させ[オッズ比(OR):5.78、95%CI:2.00~16.67、p=0.001]、甲状腺刺激ホルモンは平均4.00iU/mL(95%CI:3.90~4.10、p<0.0001)増加した。また、血中カルシウム(+0.09mmol/L、95%CI:0.02~0.17、p=0.009)および副甲状腺モルモン(+7.32pg/mL、95%CI:3.42~11.23、p<0.0001)が有意に増加した。
リチウム治療を受けた患者は、プラセボに比し体重が有意に増加した(OR:1.89、95%CI:1.27~2.82、p=0.002)が、オランザピンに比べれば有意に低かった(OR:0.32、95%CI:0.21~0.49、p<0.0001)。先天性奇形、脱毛、皮膚障害のリスクの増加は認めなかった。
著者は、「リチウムは、尿濃縮能の低下、甲状腺機能低下症、副甲状腺機能亢進症、体重増加のリスクを増大させた。臨床的に重大な腎機能の低下は認めず、末期腎不全のリスクは低かった」と結論し、「妊娠中はリチウム治療を中止した妊婦が多いため、先天性奇形への影響は不明である。副甲状腺機能亢進症のリスクが高いことは一貫性のある結果であり、治療前や治療中に血中カルシウム濃度の検査を行うべきである」と指摘している。
(菅野守:医学ライター)