イングランドとウェールズでは1997~2006年までの10年間で、精神保健サービスの提供によって自殺率が有意に低下したことが、英国・マンチェスター大学のDavid While氏らの調査で示された。自殺による死亡者の多くは、死亡時に気分障害などの精神疾患を有していたり、アルコールや薬物を過剰に摂取するなどしており、精神保健サービスは自殺リスクの抑制において重要な役割を担うことが示唆されている。しかし、自殺予防における精神保健サービス提供の有効性を検証した研究は少ないという。Lancet誌2012年3月17日号(オンライン版2012年2月2日号)掲載の報告。
精神保健サービスの実施状況と自殺率の関連を評価
研究グループは、1997~2006年までのイングランドとウェールズの自殺データを用い、精神保健サービスの主な対策の実施状況を経時的に調査し、介入の実施と自殺率の関連を横断的に分析した。
自殺前の12ヵ月間に精神保健サービスの介入を受けた自殺死亡者のデータを収集した。精神保健サービスは9項目の主対策からなり、その大部分を実施した場合と、ほとんど実施しなかった場合の自殺率を比較し、介入の前後の自殺率について検討した。
実施対策数が経時的に増加、介入によって自殺率は低下
1997~2006年の間に5万437人が自殺し、そのうち1万2,881人(26%)が精神保健サービスを受けていた。実施された対策の項目数の平均値は、1998年の1サービス当たり0.3項目から2006年には7.2項目へ増加していた。
横断的分析および介入前後の比較の双方において、対策の実施によって自殺率が低下していた。自殺率の低下が最も大きかった対策は「24時間対応の危機的状態に対するケア(対策チームが精神的に危機的な状態にある者に24時間対応する地域サービス。他の対策の準備が整うまでの短期的介入)」で、年間1万人当たりの自殺者数が介入前の11.44から介入後には9.32にまで低下した(p<0.0001)。
同様に、「二重診断(dual diagnosis、精神疾患と薬物/アルコールの依存/濫用の併存)患者の管理対策」により介入前の10.55から介入後は9.61へ(p=0.0007)、「多分野協働評価(multidisciplinary review)に関する対策」によって11.59から10.13へ有意に低下した(p<0.0001)。対策を行っていないサービスでは自殺率はほとんど低下しなかった。
著者は、「精神保健サービスの提供は自殺率に影響を及ぼす可能性が示唆された」と結論し、「新たな対策と自殺率の関連を評価することで、今後の自殺予防に有益な情報がもたらされ、精神保健ケアを受ける患者の安全性の改善に資すると考えられる」と指摘している。
(菅野守:医学ライター)