アメリカでは現在、携帯電話の使用率がほぼ100%に達しているが、関連が指摘されている神経膠腫のリスク増大は認めないことが、アメリカ国立がん研究所のM P Little氏らの検討で示された。国際がん研究機関(International Agency for Research on Cancer:IARC)は最近、2つの疫学試験[interphone試験(2010年)、スウェーデン試験(2011年)]で報告された相対的なリスクに基づいて、携帯電話の使用と脳腫瘍のリスクの関連について再評価を行い、発がん促進の可能性のある携帯電話のマイクロ波放射の分類を行った。その一方で、1990年半ば以降、脳腫瘍の発生率の傾向は携帯電話の使用増加を反映しておらず、一般にこの状況は現在も続いているという。BMJ誌2012年3月25日号(オンライン版2012年3月8日号)掲載の報告。
神経膠腫発生の観測値と推定値を、携帯電話の使用状況との関連で比較
研究グループは、IARCの発がん性分類における携帯電話の位置づけの観点から、神経膠腫のリスクに関する最近の2つの報告(IARC分類に基づく)と、アメリカにおける実際の発生状況の整合性について検討した。
1997~2008年の神経膠腫発生の観測値と推定値を比較した。推定値は、2010年のInterphone試験、2011年のスウェーデンの試験で報告された相対リスクと、年齢・レジストリー・性別による調整値、携帯電話の使用データ、種々の潜伏期間を統合して算出した。
アメリカのSurveillance, Epidemiology, and End Results(SEER)プログラムの12のレジストリーから、1992~2008年の神経膠腫発生のデータを用いた。神経膠腫と診断された18歳以上の非ヒスパニック系の白人2万4,813例が解析の対象となった。
使用状況は大きく変わったが、リスクは変化せず
1992~2008年の間に、アメリカの携帯電話の使用状況はほぼ0%から100%へと大きく変化したが、この間に年齢特異的な神経膠腫の発生率は全般的に変化しなかった(年間発生率の変化率:-0.02%、95%信頼区間:-0.28~0.25%)。
電話の使用と神経膠腫リスクが相関し、さらに潜伏期間10年、低相対リスクとした場合でも、推定値が観測値を上回っていた。腫瘍の潜伏期間と累積電話使用期間から算出されたスウェーデン試験の相対リスクに基づくと、アメリカの2008年の推定値は観察値を40%以上も上回っていた。
一方、Interphone試験の携帯電話の使用頻度が高い群における神経膠腫発生の推定値は観測値と一致していた。携帯電話の使用頻度が低い群や相対リスクが1以上の群に限定した場合でも、これらの結果の妥当性は維持されていた。
著者は、「IARCの再評価に基づくスウェーデン試験で報告された携帯電話の使用による神経膠腫のリスク増大は、アメリカの携帯電話使用者における観測値とは一致しなかったが、Interphone試験の中等度リスク群とアメリカの状況は一致していた」とまとめている。
(菅野守:医学ライター)