1990年代後半以降、日本の男性管理職や専門・技術職の死亡率、自殺率が急激に上昇し、その他の職種を上回るという西欧諸国の定説とは異なるパターンが出現したことが、北里大学医学部公衆衛生学の和田耕治氏らの調査で明らかとなった。日本の保健医療は現在、1990年代以降の長引く景気低迷により、特に労働年齢男性で危機的状況にあり、これは男性における高い自殺率で特徴づけられる。一方、この間の職種別の死亡率の傾向はほとんど知られていないという。BMJ誌2012年4月7日号(オンライン版2012年3月6日号)掲載の報告。
経済不況期の職種別の死亡状況を後ろ向きに評価
研究グループは、1980~2005年の日本における職種別の全死因死亡および死因別死亡の経時的な傾向の評価を目的に、レトロスペクティブなコホート試験を実施した。
厚生労働省の人口動態統計や5年毎の国勢調査のデータを用い、30~59歳の男性の死亡前の最終の職種別に縦断的な解析を行った。職種を管理職、専門・技術職、その他(事務、販売、接客、警備、農林水産、運輸・通信、製造・労務、無職)に分け、全死因、4大死因(がん、脳血管疾患、虚血性心疾患、不慮の事故)、自殺による年齢調整死亡率について検討した。
職務上の要求の増加や職場環境のストレス増大が影響か?
全死因および4大死因による年齢調整死亡率は、その他の職種では徐々に低下したが、管理職および専門・技術職では1990年代後半に上昇に転じた(p<0.001)。調査期間中に死亡率が最も低下したのは製造・労務、事務、販売であったが、年齢調整死亡率は全体として職種間で大きなばらつきがみられた。
自殺率は1995年以降、職種を問わず上昇したが、特に顕著な増加を示した管理職および専門・技術職がその他の職種を上回った。2005年の時点で、専門・技術職の自殺率はその他の職種より低くなったが、管理職における著明な上昇傾向は収まっていない。
著者は、「日本では、経済的な低迷期に死因別死亡の職種別パターンが激変し、結果として西欧諸国とは異なるパターンが出現した」と結論。「景気低迷による健康への影響が、事務職員や肉体労働者よりも管理職や専門・技術者で不良であった原因は、職務上の要求の増加や職場環境のストレス増大のためと考えられ、以前にみられた職種別の健康上の不均衡が消失したか、あるいは逆転した可能性さえある」と考察し、「2008年の世界金融危機以降、他国でも同様の現象が進行している可能性がある」と警鐘を鳴らしている。
(菅野守:医学ライター)