甲状腺ホルモンにはトリヨードサイロニン(T3)とサイロキシン(T4)があり、細胞活性はT3が数倍強いが、血中を循環するのはおもにT4といわれる。また甲状腺を切除した患者ではT3の産生が望めず、その欠乏は避けられないとされ、切除患者には甲状腺ホルモン剤レボチロキシン(LT4)投与とT3投与の併用療法が行われる。しかしT3を併用投与することの効果は確認されていない。そこでジョージタウン大学医療センターのJacqueline Jonklaas氏らは、標準的なLT4療法を受けた患者のT3産生レベルが、甲状腺切除前より本当に下がるのかどうかを評価するプロスペクティブ研究を行った。JAMA誌2008年2月20日号より。
血中T3レベルを全摘の前と後で比較
本研究は2004年1月30日から2007年6月20日にかけて行われた。試験参加患者は18~65歳の甲状腺機能は正常だが、甲状腺腫、良性小結節、甲状腺癌の疑い、または診断が確定したため甲状腺全摘を予定していた50例。
摘除後にLT4を投与。術後血中甲状腺刺激ホルモン(TSH)レベルの維持に留意し、良性の甲状腺疾患患者にはTSHレベルを正常に保つよう、甲状腺癌患者にはTSHレベルを抑制するよう、LT4投与量は必要に応じて調整された。
主要評価項目はT4、T3、TSHの各レベルとし、術前・術後に各2回測定された。
LT4による標準治療でT3レベルは維持された
研究終了までにLT4を投与された患者のT3レベルは、術前と比較して、有意な低下はみられなかった(平均値:術前129.3ng/dL、術後127.2ng/dL、P=0.64)。低値を示していることが確認されたのは、血中TSH濃度が4.5mIU/Lまたはそれ以下にならなかった患者群(P<0.001)。しかし患者の94%は試験終了までに正常値の4.5mIU/Lまたはそれ以下に達している。
一方T4レベルは、もともとのT4レベルと比較して有意に高いことが確認された(平均値:術前1.05ng/dL、術後1.41ng/dL、P<0.001)。
これらの結果から研究グループは、甲状腺のほとんどあるいは全部を摘除した患者ではLT4投与のみの標準治療で正常なT3レベルは維持されており、このことは血中T3レベルを術前の内生レベルに維持するのにT3投与は必要でないことを示唆していると結論づけている。
(朝田哲明:医療ライター)