切除可能な食道がんの治療では、低侵襲食道切除術が開胸食道切除術に比べ術後の肺感染症の頻度が低く、短期的なベネフィットをもたらすことが、オランダ・アムステルダム自由大学医療センターのSurya S A Y Biere氏らの検討で示された。切除可能な食道がんの唯一の根治的治療は食道切除術とされるが、開胸食道切除術では患者の半数以上に術後の呼吸器合併症の発現がみられる。胸腔鏡と腹腔鏡を用いた低侵襲食道切除術は、術後の肺感染症の合併が少ないため在院日数が短縮することが知られているが、これまで無作為化試験による評価は行われていなかったという。Lancet誌2012年5月19日号(オンライン版2012年5月1日号)掲載の報告。
術後合併症の発現を評価する多施設共同非盲検無作為化試験
研究グループは、開胸食道切除術と低侵襲食道切除術における術後合併症の発現状況を評価する多施設共同非盲検無作為化試験を行った。
2009年6月1日~2011年3月31日までに、3ヵ国(オランダ、スペイン、イタリア)の5施設から18~75歳の切除可能な食道がんおよび胃食道接合部がん患者(cT1~3/N0~1/M0)が登録され、開胸食道切除術あるいは右胸腔鏡と上腹部腹腔鏡を用いて侵襲度を最小限にした食道切除術(MIO群)を行う群に無作為に割り付けられた。
患者、施術担当医、アウトカムの評価者、データ解析の担当者には治療割り付け情報がマスクされた。主要評価項目は、術後2週以内および全在院期間中の肺感染症の発現とした。
術後2週間の肺感染症:29% vs. 9%
開胸群に56例、MIO群には59例が割り付けられた。術後2週間における肺感染症の発生率は、開胸群の29%(16/56例)に対しMIO群は9%(5/59例)と有意に低かった(相対リスク[RR]:0.30、95%信頼区間[CI]:0.12~0.76、p=0.005)。
全在院期間中の肺感染症発生率も、開胸群の34%(19/56例)に対しMIO群は12%(7/59例)であり、有意な差が認められた(RR:0.35、95%CI:0.16~0.78、p=0.005)。
在院日数はMIO群で有意に短く(14日 vs. 11日、p=0.044)、短期的なQOL(SF 36、EORTC C30、OES 18で評価)もMIO群が良好であった。在院中の死亡は、開胸群が1例(吻合部漏出)、MIO群は2例(吻合部漏出後の誤嚥および縦隔炎)だった。
著者は、「これらの知見により、切除可能な食道がんに対する低侵襲食道切除術の短期的なベネフィットのエビデンスがもたらされた」と結論付け、「低侵襲食道切除術における肺感染症の低下はいくつかの要因で説明できるが、無気肺の発現低下の影響が大きいと考えられる」と指摘している。
(菅野守:医学ライター)