耳鳴り症状に対し、通常ケアと比較して認知行動療法が、健康関連QOLや耳鳴り重症度を改善することが、オランダ・マーストリヒト大学のRilana F F Cima氏らによる無作為化試験の結果、報告された。耳鳴り症状を呈する成人は最高で21%にも達し、最も苦痛で消耗が激しい聴覚医学的問題の1つとされている。しかし臨床的治癒を導く標準療法がないため、コスト高で長期にわたる治療となりやすい。そこでCima氏らは、認知行動療法による段階的ケアアプローチの効果について通常ケアと比較する評価を行った。Lancet誌2012年5月26日号より。
耳鳴りの音に脳を順応させる認知行動療法と通常ケアを比較
試験は、オランダ・HoensbroekにあるAdelante Department of Audiology and Communicationで被験者を募り行われた。耳鳴りを主訴とするが、試験参加を妨げるような健康問題を有していない、18歳以上の未治療のオランダ語を話せる人を登録した。
独立した研究アシスタントがコンピュータを使って、被験者を耳鳴り重症度と聴力で4つのグループに層別化し、認知行動療法として耳鳴りの音に脳が順応するよう訓練する耳鳴り順応療法(tinnitus retraining therapy:TRT)を受ける群(専門治療群)と、通常ケアを受ける群に患者を1対1となるよう無作為に割り付けた。患者と評価者に治療割付情報は知らされなかった。
主要評価項目は、健康関連QOL(健康ユーティリティ・インデックス・スコアで評価)、耳鳴り重症度(耳鳴りアンケート・スコア)、耳鳴り機能障害(耳鳴りハンディキャップ項目スコア)とした。評価は治療前と、無作為化後3ヵ月、8ヵ月、12ヵ月時点で行われ、マルチレベル混合回帰分析法を用いてintention-to-treatでのアウトカム評価が行われた。
健康関連QOL、耳鳴り重症度および機能障害が改善
2007年9月~2011年1月の間に741例がスクリーニングを受け、492例(66%)が登録され治療を受けた。
結果、専門治療群(245例)は、通常ケア群(247例)と比較して、12ヵ月で健康関連QOLの改善が認められ(群間差:0.059、95%信頼区間:0.025~0.094、コーエン効果サイズについてのd=0.24、p=0.0009)、耳鳴り重症度指数が低下し(同:-8.062、-10.829~-5.295、d=0.43、p<0.0001)、耳鳴り機能障害指数が低下した(-7.506、-10.661~-4.352、d=0.45、p<0.0001)。
耳鳴り順応療法は、初期の耳鳴り重症度にかかわりなく効果的であり、有害事象もみられなかった。
研究グループは、「認知行動療法に基づく耳鳴り専門治療は、重症度の異なる患者に広く実施可能と言える」と結論している。