頸動脈内膜中膜厚(cIMT)の年間増加率は一般人口の心血管リスクとは相関せず、臨床試験の代替指標としては使用できないことが、ドイツ・J W Goethe大学病院(フランクフルト)のMatthias W Lorenz氏らが実施したPROG-IMT試験で示された。cIMTは、早期のアテローム性動脈硬化の非侵襲的超音波検査の生物マーカーであり、一般集団において心血管イベントのリスクと正の相関を示す。すでに多くの臨床試験が、一般集団やリスク集団にみられるcIMTの変化は心血管イベントの発生リスクを反映するとの暗黙の前提の下で行われ、通常cIMTの年間増加率を指標に用いるが、これらの関連を検証した報告はほとんどないという。Lancet誌2012年6月2日号(オンライン版4月27日号)掲載の報告。
cIMTと心血管イベントリスクの関連をメタ解析で評価
PROG-IMT試験では、一般集団を対象に超音波検査で2回以上cIMTを測定し、その後心筋梗塞、脳卒中、死亡についてフォローアップした試験の個々の患者データについてメタ解析が行われた。
2012年1月10日までに発表された一般集団を対象とした縦断的観察試験に関する論文を抽出した。心筋梗塞や脳卒中の既往歴のある患者は除外し、cIMTの増加率と心血管イベント(心筋梗塞、脳卒中、血管死、これらの併発)のリスクの関連をCox回帰分析で評価した。ランダム効果モデルを用いたメタ解析にて、cIMTの1SDおよび0.1mm増加ごとの対数ハザード比(HR)を算出した。
cIMTとは相関するが、増加率との関連は認めず
16試験に登録された3万6,984例が解析の対象となった。平均フォローアップ期間7.0年の間に、心筋梗塞が1,519件、脳卒中が1,339件、複合エンドポイント(心筋梗塞、脳卒中、血管死)は2,028件発生した。
2回の超音波検査[1回目と2回目の間隔中央値4年(2~7年)]に基づき、cIMTの年間増加率を算出した。複合エンドポイントの発生に関する総頸動脈のcIMT平均増加率のHRは、年齢、性、総頸動脈の平均cIMTで調整すると0.97[95%信頼区間(CI):0.94~1.00]、血管リスク因子で調整すると0.98(95%CI:0.95~1.01)であり、有意な差はなかった。
感度分析ではcIMT増加率とエンドポイントの関連は認めなかったが、2回の超音波検査の平均cIMTは心血管リスクと頑健な正の相関がみられた(年齢、性、総頸動脈のcIMT平均増加率、血管リスク因子で調整後の複合エンドポイントのHR:1.16、95%CI:1.10~1.22)。
超音波検査を4回実施した3試験(3,439例)では、cIMT増加率はエンドポイントとはいずれの試験も相関を示さなかった(再現性の相関:それぞれr=-0.02、-0.04、-0.06)。
著者は、「2回の超音波検査で評価したcIMTと心血管リスクの関連は一般集団では証明されなかった」と結論し、「臨床試験における心血管リスクの代替指標としてcIMTを使用できるとする結論は導き出せない」としている。
(菅野守:医学ライター)