3つの新規経口抗凝固薬リバーロキサバン*1、ダビガトラン*2、アピキサバンは、従来の標準治療であるエノキサパリンに比べ、全般的に術後の静脈血栓塞栓症の予防効果が高いが出血リスクも上昇傾向にあることが、スペイン医薬品・医療機器機構(マドリッド市)のAntonio Gomez-Outes氏らの検討で明らかとなった。欧米では、これら3つの新規薬剤は、人工股関節/膝関節全置換術後の静脈血栓塞栓症の予防治療として承認されているが、主要な臨床試験が標準治療では通常行われない下肢の静脈造影所見で評価され、出血の定義が試験によって異なるなどの理由で、臨床アウトカムや相対的な効果、安全性は明確ではないという。また、3剤を直接比較した最新の試験は行われていない。BMJ誌2012年6月30日号(オンライン版2012年6月14日号)掲載の報告。
術後の静脈血栓塞栓症の予防効果をメタ解析で評価
研究グループは、人工股関節/膝関節全置換術後の静脈血栓塞栓症の予防治療における新規経口抗凝固薬リバーロキサバン、ダビガトラン、アピキサバンの臨床アウトカムを評価するために、エノキサパリンとの直接比較試験の系統的レビューおよびメタ解析を実施し、3剤の間接的な比較も行った。
データベース(2011年4月現在のMedlineとCENTRAL)、臨床試験登録、学会記録集、規制機関のウェブサイトを検索し、人工股関節/膝関節全置換術後の静脈血栓塞栓症の予防治療における3つの新規抗凝固薬とエノキサパリンを比較した無作為化対照比較試験の論文を選出した。
2名の研究者が別個にデータを抽出した。ランダム効果モデルを用いたメタ解析で、症候性静脈血栓塞栓症、臨床的に問題となる出血、死亡、複合エンドポイント(症候性静脈血栓塞栓症、大出血、死亡)の相対リスク(RR)を評価した。
3剤に有効性と安全性の差はない
16試験(3万8,747例)が解析の対象となった。症候性静脈血栓塞栓症のリスクは、エノキサパリンに比べリバーロキサバンは有意に低かった(RR:0.48、95%信頼区間[CI]:0.31~0.75、p=0.001)が、ダビガトラン(同:0.71、0.23~2.12、p=0.54)とアピキサバン(同:0.82、0.41~1.64、p=0.57)は低い傾向はみられたものの有意差はなかった。
臨床的に問題となる出血のリスクは、エノキサパリンに比しリバーロキサバンは有意に高く(RR:1.25、95%CI:1.05~1.49、p=0.01)、ダビガトランは同等で(同:1.12、0.94~1.35、p=0.21)、アピキサバンは有意に低かった(同:0.82、0.69~0.98、p=0.03)。複合エンドポイントは、直接的および間接的な比較のいずれにおいても差はなかった。
著者は、「新規の経口抗凝固薬は、エノキサパリンに比べ全般的に静脈血栓塞栓症の予防効果が高かったが、出血リスクも高い傾向がみられた。3つの新規薬剤の有効性と安全性に差は認めなかった」と結論している。
(菅野守:医学ライター)
*1商品名:イグザレルト。本邦では人工股関節/膝関節全置換術後の静脈血栓塞栓症発症抑制については未適応。
*2商品名:プラザキサ。本邦では人工股関節/膝関節全置換術後の静脈血栓塞栓症発症抑制については未適応。