ヒマラヤ登山死、商業化で低下傾向に

提供元:ケアネット

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公開日:2012/07/13

 



ヒマラヤ登山における死亡リスクは、登山経験が豊富だからといって低減せず、従来の非商業的で探索的な登山よりも、むしろ最近の商業登山のほうが死亡リスクを改善する傾向にあることが、米国Madigan Healthcare System(ワシントン州タコマ)のJohn L Westhoff氏らの調査で明らかとなった。登山は人気が高いがきわめて危険な活動であり、ほかのほとんどの娯楽的活動よりも死亡率が高い。ヒマラヤ登山の商業化の傾向に伴い、比較的経験の浅い登山者が、自力で登るには経験不足な山頂を職業的ガイドの指導の下で目指すことが多くなったが、登山による負傷率はこの数十年、下降傾向にあるという。BMJ誌2012年6月30日号(オンライン版2012年6月13日号)掲載の報告。

ヒマラヤ登山の死亡リスクを後ろ向きコホート試験で評価




研究グループは、過去のヒマラヤ登山の経験と登山死のリスク低減の関連および商業登山と従来の登山の死亡リスクの違いを評価するために、レトロスペクティブなコホート試験を行った。

1970年1月1日~2010年春の登山好適期までに、ネパールのヒマラヤ山脈登山の参加者を対象に、登山経験に基づく生存解析を行った。ヒマラヤ山脈の探索、探検の時代である1970~1989年と、1990年頃に始まる現在の商業化されたヒマラヤ登山の時代を比較した。
商業登山で死亡リスクが37%低減




3万9,038人の登山者のうちベースキャンプからポーターなしの登山を試みたのは2万3,995人(男性2万1,555人[89.8%])で、標高8,000メートル以上に到達したのは2万3,295人(同:2万1,293[91.4%])だった。登山時の平均年齢は32歳。1万6,976人(70.8%)は初回のみで、それ以上のヒマラヤ登山は行っていなかった。

登山経路(標準、標準外)、登頂目標(アンナプルナI、エベレストなど8つ)、登山時の年齢、季節、性別、登頂の成功/不成功、登山年で調整したところ、ヒマラヤ登山の経験回数は死亡率と関連しなかった(初回登山者の死亡率:1.5%、2~4回目:1.5%、5~9回目:1.6%、10回以上:1.5%、オッズ比[OR]:1.00、95%信頼区間[CI]:0.96~1.05、p=0.904)。商業登山の参加者は従来の非商業的登山隊に比べ死亡率が37%低かったが、有意な差はなかった(0.7% vs 1.7%、OR:0.63、95%CI:0.37~1.09、p=0.100)。

最も死亡率が高い登頂目標はアンナプルナIの4.0%で、ほかのすべての登頂目標の包括的な死亡リスクよりも有意に高かった(p<0.001)。年代が進むに従い、死亡率の有意な低下傾向が認められた(1970年代:3.0%、80年代:2.2%、90年代:1.3%、2000年代:0.9%、OR:0.98、95%CI:0.96~0.99、p=0.011)。

著者は、「ヒマラヤ登山経験の豊富さや非商業的な従来の登山による生存ベネフィットは認めなかった」と結論し、「最近になるほど死亡率が低くなることから、生存率の改善には個人の経験よりも集団の知識の集積や一般的な技術革新が重要なことが示唆される」と指摘している。

(菅野守:医学ライター)