小児科研修医の2割がうつ病を、7割以上が燃え尽き症候群(burnout)に罹患し、うつ病研修医は投薬ミスの頻度が約6倍も高いことが、米国Harvard大学医学部付属小児病院(ボストン)のAmy M Fahrenkopf氏らの研究により明らかとなった。米国では毎年4万4,000~9万8,000人の患者が医療過誤で死亡し、薬物有害事象のうち予防可能な事例は40万件にのぼるが、これには睡眠不足や過重労働など医療従事者の労働条件の実質的な関与が指摘されていた。BMJ誌2008年3月1日号(オンライン版2008年2月7日号)掲載の報告。
都市部施設の小児科研修医の労働状況、投薬ミス、罹病を調査
研究グループは、小児科研修医におけるうつ病および燃え尽き症候群の罹患状況を調査し、これらの疾患と投薬ミスの関連性について検討するためのプロスペクティブなコホート研究を実施した。
米国都市部の3つの小児病院[ボストン小児病院(ボストン、マサチューセッツ州)、Lucile Packard小児病院(パロアルト、カリフォルニア州)、国立小児医療センター(ワシントンDC)]で3つの小児科研修医プログラムに参加した研修医123人が対象となった。
参加研修医は2003年5~6月の期間、毎日の労働状況と睡眠時間を記録し、健康状態、QOL、自己報告による投薬ミスに関する質問票に記入した。うつ病の発症状況はHarvard national depression screening day scale、燃え尽き症候群はMaslach burnout inventoryを用いて評価した。
医療従事者の精神衛生が患者の安全性に重大な影響を及ぼす
24人(20%)がうつ病の判定規準を、92人(75%)が燃え尽き症候群の判定規準を満たした。積極的監視(active surveillance)では参加研修医による45件の投薬ミスが確認された。
うつ病に罹患した研修医の月間の投薬ミス頻度は非うつ病研修医の6.2倍に達した(1.55 vs. 0.25、p<0.001)。燃え尽き症候群の研修医と非燃え尽き症候群研修医の投薬ミスの頻度は同等であった(0.45 vs. 0.53、p=0.2)。
Fahrenkopf氏は、「うつ病および燃え尽き症候群は小児科研修医の大きな問題であることが明らかとなった。投薬ミスの頻度はうつ病の研修医で有意に高かったが、燃え尽き症候群では差は見られなかった」と結論している。また、同氏は「試験中にうつ病の研修医に適切な治療が行われないなど、本研究は重大な倫理的問題を提起する」と指摘し、「医療従事者の精神衛生は患者の安全性に重大な影響を及ぼす可能性が示唆され、他科を含め医師の精神衛生のさらなる検討の必要性が浮き彫りとなった」と考察している。
(医学ライター 菅野 守)