前立腺特異抗原(PSA)検査で限局性前立腺がんが発見された男性患者について手術群と経過観察群を比較した無作為化試験の結果、最短12年追跡の手術群の全死因死亡率および前立腺がん死亡率が経過観察群よりも有意な低下は認められなかったことが報告された。米国・ミネソタ大学のTimothy J. Wilt氏らが、PSA検査が普及した初期の患者731例(平均年齢67歳)を対象に行った試験結果で、絶対差は3%ポイント未満であったという。初期ステージの前立腺がん、とくにPSA検査で発見された腫瘍に関する治療をめぐっては、手術か経過観察かその有効性が明らかになっておらず議論の的となっていた。NEJM誌2012年7月19日号掲載報告より。
追跡中央値10年の全死因死亡、手術群47.0%、経過観察群49.9%、P=0.22
Wilt氏らは、1994年11月~2002年1月の間に前立腺がんと新規診断された1万3,022例について調査した。スクリーニングの結果、試験適格であった731例を、根治的前立腺全摘除術を受けた群(364例)もしくは経過観察群(367例)に無作為化し2010年1月まで追跡した。
被験者のPSA検査で限局性前立腺が発見された731例は、平均年齢67歳で85%が自立した生活を送っており、PSA中央値7.8ng/mL、約50%が疾患ステージT1cだった。
主要アウトカムは、全死因死亡とし、副次アウトカムは前立腺がん死亡率とした。
追跡期間中央値10年の間に、手術群の死亡は471例(47.0%)、経過観察群は183例(49.9%)で、手術群の有意な低下は認められなかった(ハザード比:0.88、95%信頼区間:0.71~1.08、P=0.22、絶対リスク低下:2.9%ポイント)。
手術群の有意な全死因死亡低下、PSA値10ng/mL超、中間・高リスクの被験者
前立腺がんまたは治療による死亡は、手術群21例(5.8%)、経過観察群31例(8.4%)だった(同:0.63、0.36~1.09、P=0.09、絶対リスク低下:2.6%ポイント)。
全死因死亡と前立腺がん死に対する治療効果は、年齢、人種、併存する疾患、自己報告の自立状況、腫瘍の組織学的所見による差は認められなかった。
手術群は、PSA値10ng/mL超の被験者(交互作用のP=0.04)と、中間リスクまたは高リスクの患者(交互作用のP=0.07)で、全死因死亡の低下が有意であった。手術後30日間の有害事象発生は21.4%、死亡は1例だった。
(武藤まき:医療ライター)