中等度~重度の急性虚血性脳卒中の治療において、シチコリン(商品名:シチコリン、シスコリンほか)、はプラセボを上回る効果はないことが、スペインGermans Trias i Pujol大学病院(バダロナ)のAntoni Davalos氏らが行ったICTUS試験で確認された。現在、欧米の急性虚血性脳卒中の治療では、発症後4.5時間以内の遺伝子組み換え組織プラスミノーゲンアクチベータ(rt-PA)の投与が唯一、推奨されている。シチコリンは神経血管の保護と修復作用を併せ持つ新規薬剤で、動物モデルでは虚血発作から数時間後でも急性の脳損傷の抑制や機能の回復効果を示すことが報告され、統合解析で有効性のエビデンスが示されている。Lancet誌2012年7月28日号(オンライン版2012年6月11日号)掲載の報告。
シチコリンの有効性をプラセボ対照無作為化試験で評価
ICTUS(international citicoline trial on acute stroke)試験は、急性虚血性脳卒中に対するシチコリンの有効性を検証する国際的な多施設共同プラセボ対照無作為化試験。
対象は、中等度~重度の急性虚血性脳卒中による入院患者とした。これらの患者が、発症後24時間以内にシチコリンあるいはプラセボを投与する群[1~3日は12時間ごとに1,000mgを静注投与し、その後6週間は12時間ごとに錠剤(500mg)×2錠を経口投与]に無作為に割り付けられた。
患者には治療割り付け情報がマスクされた。主要評価項目は、90日後の3つの指標に基づく総合評価による回復の達成とした[NIH脳卒中スケール(NIHSS)≦1、修正Rankinスケール(mRS)≦1、Barthelインデックス≧95]。安全性は、rt-PA治療後の症候性脳出血、神経学的増悪、死亡について評価した。
中間解析で早期中止に
2006年11月26日~2011年10月27日までに、スペインの37施設、ポルトガルの11施設、ドイツの11施設から合計2,298例が登録された。シチコリン群に1,148例(平均年齢72.9歳、70歳以上67.4%)が、プラセボ群には1,150例(同:72.8歳、67.6%)が割り付けられた。
3回目の中間解析で、2,078例のデータに基づき両群間に有効性および安全性の差は認めないと判定され、試験は中止された。最終的に2,298例全例のデータの解析が行われた。
総合的回復率は両群で同等で(オッズ比:1.03、95%信頼区間[CI]:0.86~1.25、p=0.364)、3つの指標のいずれにおいても有意な差はなかった(NIHSS≦1、OR:1.09、95%CI:0.87~1.36、mRS≦1、OR:1.07、95%CI:0.85~1.36、Barthelインデックス、OR:0.95、95%CI:0.77~1.17)。
重篤な有害事象は、出血性/虚血性脳卒中がシチコリン群の5.2%、プラセボ群の4.5%に、心疾患がそれぞれ3.9%、3.4%に、肺炎が2.7%、2.7%にみられ、安全性にも差は認めなかった。
著者は、「シチコリンは、中等度~重度の急性虚血性脳卒中の治療においてプラセボを上回る効果は認めなかった」と結論している。
(菅野守:医学ライター)