子宮頸癌は多くの途上国で最も発症頻度が高い女性の癌である。細胞診によるスクリーニングの有用性は途上国でも確認されているが、サハラ以南のアフリカ、南アジアなど細胞診が困難な地域では代替法として3~5%酢酸を用いた頸部視診(VIA)が行われている。生涯に1度のVIAは費用効果に優れることが示唆されているが、実際の臨床プログラムにおける子宮頸癌の予防、死亡率の抑制効果は不明である。
Rengaswamy Sankaranarayanan氏ら、フランス・リヨン市の国際癌研究機関(IARC、http://www.iarc.fr/)の研究グループは、インドの高リスク集団を対象に4%酢酸によるVIAスクリーニングの効果を検討、8月4日付Lancet誌でその結果を報告した。
インドの地方都市における健常女性を対象としたクラスター無作為化試験
南インド・タミル・ナードゥ州ドゥンドグル市の114の試験群(クラスター)を、看護師によるVIAを1回施行する群(57クラスター)と対照群(57クラスター)に無作為に割り付けた。
対象は30~59歳の健常女性とした。VIAによるスクリーニングの陽性者には即座にコルポスコピーを実施、異常がみつかった場合は狙い生検(directed biopsy)を施行後、必要に応じて凍結療法を行った。主要評価項目は子宮頸癌の発症率および死亡率。
介入群で子宮頸癌の発症率が25%、死亡率が35%低下
2000~2003 年に、介入群4万9,311人の女性のうち3万1,343人(63.6%)がスクリーニングを受け、対照群3万958人の女性は標準的ケアを受けた。スクリーニング陽性3,088人(9.9%)のうち3,052人がコルポスコピーを、2,539人が生検を受けた。介入群のうち1,874人に前癌病変が見つかり、72%が治療を受けた。
2000~2006年の7年間に、対照群17万8,781人年では158人が子宮頸癌を発症、 92人が死亡したのに対し、介入群(27万4,430人年)ではそれぞれ167人、83人であり、介入群で発症率が25%(ハザード比0.75、95%信頼区間0.55-0.95)、死亡率が35%(同0.65、0.47-0.89)低下していた。
Sankaranarayanan 氏は、「適切な訓練と持続的な質の保障があれば、VIAによるスクリーニングは途上国における子宮頸癌の予防法として有効」と結論、「年間に約12万人が子宮頸癌を発症し、約8万人が死亡しているインドだけでなく、同様のリスクを抱える他の途上国もVIAスクリーニングをルーチン化すべき」と主張している。また、「スクリーニングのインフラの確立に向け、本法はヒトパピローマウイルス(HPV)の検出技術の開発にも容易に適用できる」という。
(菅野 守:医学ライター)