前立腺特異抗原(PSA)スクリーニングによる前立腺がん死亡率減少というベネフィットは、過剰診断やその後の長期にわたる治療で失われる質調整生存年(QALY)によって減じてしまうことが示された。オランダ・エラスムス医療センターのEveline A.M. Heijnsdijk氏らが、欧州前立腺がんスクリーニング無作為化試験(ERSPC)の追跡データをベースに作成したモデルを用いて解析した結果で、「スクリーニングを勧告する前に、より長期のERSPCとQOL解析の両者の追跡データが必須である」と結論している。NEJM誌2012年8月16日号掲載報告より。
前立腺がん死亡27%減少のベネフィットがどれほど影響を受けるかを検証
ERSPCの11年追跡の報告では、PSAスクリーニングを受けた男性の前立腺がん死亡率は29%減少したと報告されている。しかし、このベネフィットが、スクリーニングによるQOLへの悪影響を加味した場合、どれぐらい相殺されるかは明らかになっていなかった。
Heijnsdijk氏らはERSPC追跡データをベースに、複数のPSAスクリーニング戦略モデル(55~69歳で年1回実施、55~74歳で年1回実施、55~69歳で4年ごとに実施、55歳時に1回実施、60歳時に1回実施、65歳時に1回実施)を作成。マイクロシミュレーションスクリーニング解析(MISCAN)にて、各モデルのスクリーニング後の前立腺がん検出、治療、死亡、およびQALYの予測値を算出した。
55~69歳で年1回実施群の獲得QALYは未補正獲得生存年より23%減少
結果、ベースモデルのスクリーニング戦略(55~69歳で年1回実施)では、寿命追跡した全年齢男性1,000人当たり、非スクリーニング群と比較して、前立腺がん死亡は9例(28%)減少、緩和ケアを受けた人は14例(35%)減少し、獲得生存年は総計73年(前立腺がん死亡を平均8.4年延長)と予測された。
しかし、獲得QALYは56年(範囲:-21~97)で、未補正獲得生存年より23%減少することが示された。前立腺がん死亡1例を回避するには、スクリーニング実施98例中5例で前立腺がんが検出される必要があることが示された。
55~74歳で年1回実施のスクリーニングモデルでは、獲得生存年はより大きく総計82年だったが、獲得QALYは56年とベースモデルと変わらなかった。
(武藤まき:医療ライター)