英国の自殺率上昇、景気後退が影響

最近の英国の自殺率の上昇は、2008年に始まった財政危機に関連することが、英国・リバプール大学のBen Barr氏らの調査でわかった。英国の自殺率は長期的に低下していたが、2008年に上昇に転じた。2008~2010年の景気後退の影響が示唆されていたが、これを検証する研究は行われていなかった。BMJ誌2012年9月8日号(オンライン版2012年8月14日号)掲載の報告。
景気後退と自殺の関連を時系列研究で評価
研究グループは、2008~2010年の英国の景気後退の影響が最も大きかった地域の自殺率が高いか否かを検証するために時系列研究(time trend analysis)を実施した。実際の自殺者数を、景気後退以前の状況が持続したと仮定した場合の予測値と比較した。多変量回帰モデルを用いて、失業(保険金受給者データに基づく)と自殺(National Clinical Health Outcomes Databaseに基づく)の変化の関連を定量化した。
対象は、2000~2010年に、英国の93地域において自殺または原因不明の傷害による死亡の記録のある集団とした。主要評価項目は景気後退期の自殺者の増加数。
景気後退で自殺者が毎年約1,000人増加
2008年の経済危機以前の2000~2007年の間は、男性の自殺者は毎年57人[95%信頼区間(CI):-56~-58]、女性は毎年26人(95%CI:-24~-27)減少していた。2008~2010年は、景気が後退しなかった場合の自殺者数の予測値に比べ、男性の実際の自殺者数は毎年846人(95%CI:818~877)多く、女性の自殺者数は毎年155人(95%CI:121~189)増えていた。失業率の短期的な年次変動は、男性の場合、自殺率の年次変動と関連したが、女性にはそのような関連はみられなかった。
男性の失業率が10%増加するごとに男性自殺率が有意に1.4%(95%CI:0.5~2.3、p<0.001)上昇すると推定された。女性の上昇率は0.7%(-1.5~3.0)で、有意差は認めなかった。これらの知見から、2008~2010年の景気後退期における男性の自殺率上昇(329人増加)の5分の2が、失業率の増加に起因することが示唆された。
著者は、「最近の英国の自殺率の上昇は2008年に始まった財政危機に関連することを示すエビデンスが得られた」と結論し、「失業率の増加が最も大きい地域は自殺率の上昇も最大で、とくに男性の自殺率が高かった」としている。
(菅野守:医学ライター)
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