心血管系リスクの評価にあたり「肥満」を評価項目にすれば、必ずしも「コレステロール値」を測定しなくとも心血管系リスクの予測ができる可能性が出てきた。採血のためだけに医療機関を訪れる必要が減るのであれば、患者サイドにとっては朗報だろう。Lancet誌2008年3月15日号でBrigham & Women’s Hospital(米国)のThomas A Gaziano氏らが報告した。
「採血なし」のCHDリスク評価の正確性を検討
Gaziano氏らが今回検討したのは「採血なしで心血管系リスクをどこまで正確に評価できるか」という点である。そのため、「性別」「年齢」「収縮期血圧」「糖尿病」「喫煙習慣の有無」「高血圧治療の有無」に加え「総コレステロール値」を組み込んだ心血管系リスク予測モデル(コレステロール・モデル)と、「総コレステロール値」を「BMI」で置き換えた「BMIモデル」による心血管系リスク予測の正確性を比較した。
検討に用いられたコホートはNHEFS(NHANES I Epidemiologic Follow-up Study)、1971~75年にかけて実施された全国的調査NHANES Iの対象から当時25~74歳だった14,407例を前向きに追跡しているコホートである。今回はNHANES Iの時点で心血管系疾患既往を認めなかった6,186例が対象となった。
コレステロール値を用いなくともリスク予知の正確性は同等
21年間の追跡期間中、1,529例に心血管イベントが発生し、うち578例が死亡した。「コレステロール・モデル」と「BMIモデル」のイベント予知正確性に差はなかった。
すなわち、リスクモデルの正確性の指標であるc-statisticを比較すると、女性では「コレステロール・モデル:0.829」 vs. 「BMIモデル:0.831」(p=0.116)。男性では「コレステロール・モデル:0.784」 vs. 「BMIモデル:0.783」(p=0.457)だった。
ROCカーブも両モデルは、ほぼ同一に重なっていた。
WHO(世界保健機関)は心血管系リスク評価からコレステロール値をすでに取り除いているが、その正当性を強く示唆するデータであるとGaziano氏らは述べ、前向きコホート研究のデータを持つ国はすべて、このような検討を行う価値はあるとしている。わが国でも、医療経済的考察を含む検討は興味深いのではないだろうか。
(宇津貴史:医学レポーター)