患者アウトカムの公表(public reporting)は、ケアの質改善の重大なツールとなるが、一方で一部の人々からは、臨床医に高リスク患者を回避させることにつながるのではないかとの懸念がある。米国・ハーバード大学公衆衛生大学院のKaren E. Joynt氏らは、メディケア患者のアウトカムについて、公表している州としていない州とを比較した。検討は、心筋梗塞患者の経皮的冠動脈介入(PCI)実施率と死亡率との関連で、その結果、公表している州のほうが実施率が低い傾向が認められたという。しかし、全急性心筋梗塞の死亡率の差は認められなかったと報告した。JAMA誌2012年10月10日号掲載報告より。
アウトカム公表州と非公表州で、急性心筋梗塞患者のPCI実施率と死亡率との関連を比較
Joynt氏らは、2002~2010年の間に、米国の急性期病院に心筋梗塞で入院したメディケア加入者患者の診療報酬(fee-for-service)データを用いた後ろ向き観察研究を行った。
被験者は、アウトカムを公表している州の患者4万9,660例と、非公表州の4万8,142例だった。公表州(ニューヨーク、マサチューセッツ、ペンシルバニア)と、部分的に非公表の州(メイン、ヴァーモント、ニューハンプシャー、コネティカット、ロードアイランド、メリーランド、デラウェア)との、PCI実施率と死亡率との関連をロジスティック回帰分析を用いて比較した。また、非公表州と比較したマサチューセッツのPCI実施率の時間経過による変化も調べた。
主要評価項目は、リスク補正後のPCI実施率と死亡率だった。
PCI実施は公表州のほうが有意に低率、全死因死亡の差は認められず
2010年の急性心筋梗塞(MI)患者のPCI実施率は、非公表州よりも公表州で有意に低率である傾向が認められた。未補正実施率は、公表州37.7%vs.非公表州42.7%だった[リスク補正後オッズ比(OR):0.82、95%信頼区間(CI):0.71~0.93、p=0.003]。とくに両州間の差が大きかったのは、ST上昇型MI患者6,708例の間(61.8%vs.68.0%、OR:0.73、95%CI:0.59~0.89、p=0.002)と、心原性ショックまたは心拍停止の患者2,194例の間(同41.5%vs. 46.7%、0.79、0.64~0.98、p=0.03)だった。
しかし急性MI患者の全死因死亡での比較でみると、公表州と非公表州で差は認められなかった。
マサチューセッツ州については、以前(2002~2004年)は、急性MI患者のPCI実施率は非公表州と同等だった(40.6%vs. 41.8%、OR:1.00、95%CI:0.71~1.41)が、マサチューセッツ州での公表が始まって以降(2006~2010年)は有意に低率となった(同41.1%vs. 45.6%、0.81、0.47~1.38、両期間差の格差のp=0.03)。差が最も大きかったのは、心原性ショックまたは心拍停止の患者6,081例の間だった(公表前:44.2%vs. 36.6%、OR:1.40、95%CI:0.85~2.32、公表後:43.9%vs.44.8%、0.92、0.38~2.22、両期間差の格差のp=0.03)。
(武藤まき:医療ライター)