1990年代後半からのイングランドの経済的繁栄により、英国における健康の地域間隔差はむしろ拡大し、現在の経済不況によって問題はさらに悪化する可能性があることが、英国・リバプール大学のBen Barr氏らの調査で示された。1998~2007年までの10年間にわたるイングランドの経済的な繁栄は英国全体の平均寿命の延長をもたらしたが、すべての地域が豊かさを共有したわけではない。この不均一な経済発展の状況が健康隔差に及ぼした影響は明らかではなく、自治体への財政的インセンティブをその実績に基づいて決める方法の、地域保健の改善における意義も不明だという。BMJ誌2012年12月8日号(オンライン版2012年12月4日号)記載の報告。
経済的繁栄と平均寿命延長の関連を生態学的研究で検討
研究グループは、1999~2008年の英国の不均一な経済発展と、地方自治体間の平均寿命延長の隔差との関連を調査する縦断的な生態学的研究を実施した。
英国の324の地方自治体をベースラインの経済状況で分類した。1998~2007年の経済的繁栄と平均寿命の関連を検証するために多変量回帰分析を行った。
健康隔差は、1998年に最も経済状況が悪かった地域(Spearheadグループ)と英国の全自治体の平均値を比較することで評価した。
経済状況が不良な自治体ほど、平均寿命の改善率が低い
経済状況の改善が最も大きかった自治体で、平均寿命がより延長していた。失業率が1%低下するごとに、平均寿命が男性で2.2ヵ月[95%信頼区間(CI):0.5~3.8]、女性では1.7ヵ月(同:0.4~3.1)延長した。
平均世帯収入の1,000ポンドの増加ごとに、平均寿命が男性で1.4ヵ月[95%CI:0.3~2.5]、女性では1.1ヵ月[同:0.2~1.9]延長した。1998年に経済状況が不良だった自治体ほど、平均寿命の改善率が低かった。
これらの知見に基づき、「特定の自治体で平均寿命の延長幅が大きかった理由は、地域の失業率の低下と平均収入の増加でかなりの程度説明が可能」と、著者は指摘する。また、Spearheadグループと英国の全自治体の健康隔差は経済的繁栄期に拡大していたが、これは経済状況がより不良な地域で失業率低下の速度が遅かったことが原因と考えられるという。
それゆえ、現在、英国を含む欧州が直面している経済状況の悪化にともない、平均寿命の延長幅は小さくなり、健康の地域間隔差はより迅速に拡大する可能性が示唆される。著者は、「平均寿命の延長については、自治体の実績に基づいてリソースを配分すれば、それを必要とする経済的に恵まれない地域ではなく、より裕福な地域が恩恵を得る可能性があり、隔差の問題は悪化するものと考えられる」と考察している。
(菅野守:医学ライター)