2001~2011年間のイラク戦争で死亡した米国軍人の剖検からアテローム性動脈硬化症の有病率を調べた結果(8.5%)から、朝鮮戦争(77%)およびベトナム戦争(45%)当時よりも減少が示唆されたことが、米国・Uniformed Services University of the Health SciencesのBryant J. Webber氏らによる調査の結果、示された。米国では朝鮮・ベトナム戦争時の剖検結果から、虚血性心疾患が発症する20、30年前から冠動脈のアテローム性動脈硬化症が進行している可能性が示唆され、以来、軍人のみならず小児や若者をターゲットとした健康政策が実行されてきたという。その成果がみられるとしながらも著者は、「年齢別、心血管リスク因子別にみると、さらなる改善の目標は残っている」と報告した。JAMA誌2012年12月26日号掲載より。
2001~2011年のイラク戦争死亡軍人の剖検記録を解析
研究グループは、米国軍人の冠動脈および大動脈アテローム性動脈硬化症の最近の有病率を調べることを目的とした縦断研究を行った。2001年10月~2011年8月の間、イラク戦争に出征して戦闘または不慮の事故で死亡した米国軍人について、2012年1月に入手できた心血管剖検記録からアテローム性動脈硬化症の有病率を調べ、人口統計学的特性や病歴について解析した。冠動脈硬化症の重症度分類は、朝鮮・ベトナム戦争時の研究データとの整合性を図るためデータを解析する前に、軽度(脂肪線条のみ)、中等度(血管内腔10~49%の狭窄が1以上)、重症(血管内腔50%以上の狭窄が1以上)の指標によって評価した。
主要評価項目は、年齢、性、自己申告の人種/民族、教育程度、職業、所属部隊、階級、入隊時のBMI、ICD-9準拠診断の心血管リスク因子でみた冠動脈および大動脈アテローム性動脈硬化症の有病率とした。
冠動脈硬化症有病率、高年齢や脂質異常症、高血圧、肥満症の人のほうが有意に上昇
解析に組み込まれた剖検数は3,832例だった。平均年齢は25.9歳(範囲:18~59歳)、98.3%が男性であった。
結果、あらゆる冠動脈硬化症の有病率は8.5%(95%信頼区間:7.6~9.4)だった。重症の冠動脈硬化症は2.3%(同:1.8~2.7)、中等度は4.7%(同:4.0~5.3)、軽度は1.5%(同:1.1~1.9)だった。上記について朝鮮戦争時(解析300例)は、77%、15%、27%、35%、ベトナム戦争時(同105例)は、45%、5%(中等度、軽度は報告なし)だった。
アテローム性動脈硬化症有病者の平均年齢(SD)は30.5(8.1)歳と、非有病者の25.3(5.6)歳と比べて有意に年齢が高かった(p<0.001)。
また心血管リスク因子がなかった人の有病率は11.1%(95%信頼区間:10.1~12.1)であったが、脂質異常症を有していた人[有病率:50.0%(95%信頼区間:30.3~69.7)、年齢補正後有病率比:2.09(95%信頼区間:1.43~3.06)]、高血圧症を有していた人[同:43.6%(27.3~59.9)、1.88(1.34~2.65)]、肥満症の人[同:22.3(15.9~28.7)、1.47(1.10~1.96)]は有意に高かった。しかし、喫煙者のアテローム動脈硬化症の有病率は高くなかった[同:14.1%(8.0~20.2)、1.12(0.73~1.74)]。
著者は、「戦闘または不慮の事故で死亡した軍人の剖検において、アテローム硬化症の有病率は、年齢および心血管リスク因子による違いが明らかとなった」と結論し、軍人および民間人を問わずヘルスケアシステムによる幼少期から成人期までの継続した心血管リスク因子を減らす取り組みが求められるとまとめている。
(武藤まき:医療ライター)