航空機内の医学的緊急事態、医療従事者はいかに対処すべきか?/NEJM

提供元:ケアネット

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公開日:2013/06/10

 

 民間航空機の機内では、毎年、約4万4,000件の医学的緊急事態が発生し、その主な原因は失神、呼吸器症状、消化器症状であり、多くの場合に医師が有志で医療活動を行っている実態が、米国・ピッツバーグ大学のDrew C. Peterson氏らの調査で明らかとなった。現在、世界的な民間航空機搭乗者数は年間約27億5,000万人に上る。機内での医学的緊急事態発生時の対応にはおのずと限界があるが、こうした状況に対する医師や医療従事者の訓練、経験が十分でないことも事実である。これまでに行われた同様の調査は、単一の航空会社の情報に基づき、患者の転帰は対象外の場合が多かったという。NEJM誌オンライン版2013年5月30日号掲載の報告。

機内の医師からの医学的緊急事態連絡の記録を評価
 研究グループは、航空機内での医学的緊急事態の発生状況と患者の転帰に関する調査を行った。

 2008年1月1日~2010年10月31日までに、5つの国内線と国際線の民間航空会社(この間の世界の全搭乗者の約10%を占める)の機内から、医師が直接に連絡を入れた医療相談センターの医学的緊急事態記録の評価を行った。

 最も頻度の高い医学的問題や同乗者による支援の特徴について検討し、予定外の着陸地への飛行、病院への搬送、入院の発生状況やその関連因子を同定した。

604飛行に1回、遭遇機会は珍しくない
 調査期間中に機内から医療相談センターへ連絡のあった医学的緊急事態は1万1,920件で、604飛行に1回の割合であった。

 最も頻度の高かった問題は失神や失神寸前の状態(37.4%)で、次いで呼吸器症状(12.1%)、悪心・嘔吐(9.5%)の順であった。同乗の医師による医学的支援は48.1%で行われ、着陸地の変更は7.3%であった。

 搭乗終了後の追跡データが得られた1万914人のうち、25.8%が救急隊により病院に搬送され、8.6%が入院、0.3%が死亡した。最も多い入院の原因は、脳卒中の疑い(オッズ比[OR]:3.36%、95%信頼区間[CI]:1.88~6.03)、呼吸器症状(OR:2.13、95%CI:1.48~3.06)、心臓症状(OR:1.95、95%CI:1.37~2.77)の順だった。

 著者は、「機内における医学的緊急事態の主な原因は失神、呼吸器症状、消化器症状で、多くの場合に医師が有志で医療活動を行っていた。着陸地の変更や死亡例は少なく、さらなる医療評価を要したため病院へ搬送された乗客は約4分の1だった」とまとめている。

 なお、今回のデータに基づくと、世界では毎年、機内で約4万4,000件の医学的緊急事態が起きていると推定されるという。著者は、「このような事態は乗客の立場ではまれだが、毎日起きているため、旅行中の医療従事者にとっては、気分の悪くなった乗客を支援する機会は珍しくない」と述べ、「機内での医学的緊急事態に関する基礎知識や利用可能な医療資源の知識を持つことで、効果的な支援活動が可能になる」として、具体的な対処法のアルゴリズムを挙げている。

(菅野守:医学ライター)