急性虚血性脳卒中患者の治療では、発症から組織プラスミノーゲンアクチベータ(t-PA)による血栓溶解療法の開始が迅速であるほど、良好な転帰が達成されることが、米国・カリフォルニア大学ロサンゼルス校のJeffrey L Saver氏らの検討で示された。これまでに、急性虚血性脳卒中に対するt-PAの静脈内投与の効果は時間依存性であることが、無作為化臨床試験で示唆されている。一方、発症からt-PA投与開始(onset to treatment:OTT)までの時間が転帰に及ぼす影響を評価するには、いまだに症例数が十分でないため、臨床的知見の一般化可能性は確定的ではないという。JAMA誌2013年6月19日号掲載の報告。
GWTG-Strokeの登録データを解析
研究グループは、米国心臓協会(AHA)と米国脳卒中協会(ASA)が運営する全国的な患者登録システムであるGet With The Guidelines–Stroke(GWTG-Stroke)のデータを用いて、t-PA静脈内投与を受けた急性虚血性脳卒中患者の転帰とOTT時間の関連を評価した。
2003年4月~2012年3月までに、GWTG-Strokeに参加する1,395施設で発症から4.5時間以内にt-PAの投与を受けた急性虚血性脳卒中患者5万8,353例のデータを解析した。
院内死亡、頭蓋内出血が低下、退院時自立歩行、自宅退院が増加
全t-PA投与患者の年齢中央値は72歳で、女性が50.3%を占めた。OTT時間中央値は144分であり、OTT時間90分以内は9.3%(5,404例)、OTT時間91~180分は77.2%(4万5,029例)、OTT時間181~270分は13.6%(7,920例)であった。治療前のNIH脳卒中重症度スケール(NIHSS)のデータは登録患者の87.7%から得られ、スケールの中央値は11であった。
脳卒中の重症度が上がるほど(NIHSSの5点上昇ごと)OTT時間が有意に短縮した(オッズ比[OR]:2.8、95%信頼区間[CI]:2.5~3.1、p<0.001)。また、搬送に救急医療サービスを利用した場合は利用しなかった場合に比べ(142.6 vs 151.1分、OR:5.9、95%CI:4.5~7.3、p<0.001)、搬送施設の通常稼働時間(午前7~午後7時、月~金曜)内に到着した場合は時間外に到着した場合に比べ(141.5 vs 145.9分、OR:4.6、95%CI:3.8~5.4、p<0.001)、OTT時間が有意に短かった。
全体として、5,142例(8.8%)が院内で死亡し、2,873例(4.9%)が頭蓋内出血を発症し、1万9,491例(33.4%)が退院時自立歩行を達成し、2万2,541例(38.6%)が退院して自宅へ戻った。
OTT時間が15分短くなるごとに、院内死亡率(OR:0.96、95%CI:0.95~0.98、p<0.001)および症候性頭蓋内出血率(OR:0.96、95%CI:0.95~0.98、p<0.001)は有意に低下し、退院時自立歩行率(OR:1.04、95%CI:1.03~1.05、p<0.001)および自宅退院率(OR:1.03、95%CI:1.02~1.04、p<0.001)は増加した。
著者は、「脳卒中の発症から血栓溶解療法の開始が早いほど、死亡や症候性頭蓋内出血のリスクが低下し、退院時自立歩行や自宅退院の達成状況が良好だった」とまとめ、「これらの知見は、脳卒中患者はできるだけ迅速に病院へ搬送して早期に血栓溶解療法を開始するよう努めることの重要性を改めて強調するもの」と指摘している。
(菅野守:医学ライター)