統合失調症の治療に使用される抗精神病薬は、個々の薬剤で副作用が大きく異なり、有効性にも小さいながら確固とした差があることが、ドイツ・ミュンヘン工科大学rechts der IsarクリニックのStefan Leucht氏らの検討で示された。同氏は「抗精神病薬の効果は第1世代と第2世代で同じとの定説を覆すもの」としている。統合失調症の治療に、どの抗精神病薬が望ましいかとの問いへの答えは、主に費用対効果の問題で錯綜しており、従来のpairwise法によるメタ解析では、有効性および忍容性のエビデンスに基づく序列(evidence-based hierarchy)は確立されていないという。Lancet誌オンライン版2013年6月27日号掲載の報告。
15薬剤の7アウトカムをmultiple-treatmentsメタ解析で評価
研究グループは、統合失調症治療における抗精神病薬のエビデンスを統合し、有用性の序列(ヒエラルキー)の創出を目的に、直接および間接比較を用いたベイズ分析に基づくmultiple-treatmentsメタ解析を実施した。
医学文献データベースを検索し、2012年9月1日までに報告された、統合失調症またはその関連疾患の急性期治療として15の抗精神病薬とプラセボを盲検下に比較した無作為化対照比較試験の論文を抽出した。検索結果は、米国食品医薬品局(FDA)のウェブサイトの文献や製薬会社の要請によるデータで補足された。
陰性症状が優勢な患者や併発疾患、治療抵抗性がみられる患者に関する試験、病態が安定した患者を対象とした試験は除外した。主要評価項目は有効性(陽性・陰性症状評価尺度[PANSS]
に基づく総合的な症状の改善効果)とし、全原因による治療中止、体重増加、錐体外路症状、プロラクチン値上昇、心電図QTc延長、鎮静作用を合わせて全7項目のアウトカムについて検討した。
個々の患者の必要に応じた薬剤選択に有用
1955年10月~2012年9月までに発表された212試験に参加した4万3,049例について解析した。その結果、15の薬剤のすべてが、プラセボよりも有意に有効性が優れたが、プラセボとの比較における有効性に関する各薬剤の標準化平均差(standardized mean difference:SMD)には小さいながら差がみられた。15の薬剤は、有効性が高い順に以下のとおりであった[括弧内の数値は95%確信区間(credible interval:CrI)]。
クロザピン:0.88(0.73~1.03)、アミスルピリド(amisulpride・国内未承認):0.66(0.53~0.78)、オランザピン:0.59(0.53~0.65)、リスペリドン:0.56(0.50~0.63)、パリペリドン:0.50(0.39~0.60)、ゾテピン:0.49(0.31~0.66)、ハロペリドール:0.45(0.39~0.51)、クエチアピン:0.44(0.35~0.52)、アリピプラゾール:0.43(0.34~0.52)、セルチンドール(sertindole・同):0.39(0.26~0.52)、ジプラシドン(ziprasidone・同):0.39(0.30~0.49)、クロルプロマジン:0.38(0.23~0.54)、アセナピン(asenapine・同):0.38(0.25~0.51)、ルラシドン(lurasidone・同):0.33(0.21~0.45)、イロペリドン(iloperidone・同):0.33(0.22~0.43)。
副作用には差があり、各薬剤の特性が認められた。すなわち、プラセボとの比較における全原因治療中止のオッズ比(OR)が最も優れていたのはアミスルピリドの0.43で、ハロペリドールの0.80が最も不良であった。同様に、錐体外路症状のORの範囲はクロザピンの0.30からハロペリドールの4.76まで、鎮静作用はアミスルピリドの1.42からクロザピンの8.82までであった。
体重増加のSMDはハロペリドールの-0.09が最良で、オランザピンの-0.74が最も不良であり、同様にプロラクチン値上昇のSMDの範囲はアリピプラゾールの0.22からパリペリドンの-1.30、心電図QTc延長のSMDはルラシドンの0.10からセルチンドールの-0.90までであった。
著者は、「個々の抗精神病薬の副作用は大きく異なっており、有効性にも小さいながら確固とした差が認められた」とまとめ、「これらmultiple-treatmentsメタ解析による知見は従来のpairwiseメタ解析の限界を克服するもので、『第1世代と第2世代の抗精神病薬の効果は同じ』とする定説に異議を唱え、このような単純なカテゴリーには分類できないことを示唆する。7項目のアウトカムに関する序列は、個々の患者の必要に応じた抗精神病薬の選択に有用であり、心の健康に関する施策を立案する際や診療ガイドラインの改訂時に考慮すべきである」と指摘している。
(菅野守:医学ライター)