大気中の特定のガス状物質や粒子状物質と、心不全による入院や死亡リスクとの関連が、英国エジンバラ大学のAnoop S V Shah氏らの検討で明らかとなった。心不全の有病率は加齢とともに上昇し、罹患者は世界で2,300万人以上に上ることから、公衆衛生学上の課題として浮上している。一方、WHOの推算では、世界で毎年100万人以上の死亡に大気汚染が影響を及ぼしている。大気汚染への急性曝露と心筋梗塞との関連が知られているが、心不全に対する影響はこれまで不明であった。Lancet誌オンライン版2013年7月10日号掲載の報告。
6物質のリスクを35論文のメタ解析で評価
研究グループは、大気汚染と急性非代償性心不全の関連の評価を目的に、系統的レビューとメタ解析を行った。
5つの医学文献データベースを検索して、4つのガス状物質[一酸化炭素(CO)、二酸化硫黄(SO
2)、二酸化窒素(NO
2)、オゾン(O
3)]および2つの粒子状物質[PM
2.5(直径<2.5μm)、PM
10(直径<10μm)]と、心不全による入院、死亡の関連を検討した試験を選出し、ランダム効果モデルを用いて個々の汚染物質の推定リスクを算出した。
日本からの2編を含む35編の論文が解析の対象となった。10試験が事例交差デザイン(case-crossover design)、24試験が時間シリーズデザイン(times-series design)で、1試験は両方のデザインを採用しており、総イベント数は400万件に上った。
O3以外の5つの物質がリスク上昇と関連
CO濃度が1PPM増加すると、心不全による入院、死亡のリスクが有意に3.52%(95%信頼区間[CI]:2.52~4.54)上昇した。SO
2とNO
2も、濃度10 PPB増加当たりのリスクが、それぞれ2.36%(95%CI:1.35~3.38)、1.70%(同:1.25~2.16)上昇したが、O
3濃度の増加はリスク上昇とは関連しなかった(0.46%/10PPB、95%CI:-0.10~1.02)。
粒子状物質にも心不全による入院、死亡リスクとの関連が認められ、PM
2.5濃度が10μg/m
3増加するとリスクは2.12%(95%CI:1.42~2.82)上昇し、PM
10濃度の10μg/m
3増加当たり、リスクが1.63%(95%CI:1.20~2.07)上昇した。
米国の場合、PM
2.5濃度の目標値5.8μg/m
3(健康への有害作用が発現しない上限値)の達成には、全国的に平均3.9μg/m
3の低下を実現する必要があり、これによって心不全関連入院が7,978件回避され、年間約3億700万ドルが節減可能と推算された。
著者は、「開発途上国におけるさらなる検討を要するが、大気汚染は心血管疾患や医療経済に関連する公衆衛生学上の広範な課題であり、引き続き世界的な保健政策の主要対象とすべき」と指摘している。
(菅野守:医学ライター)