尿酸値の低下による心血管疾患予防効果が示唆されている。観察試験では尿酸値上昇と虚血性心疾患や血圧との関連が示されているが、交絡要因やバイアス、逆因果性のため解釈は困難だという。英国・ウォーリック大学のTom M Palmer氏らは、メンデル無作為化(Mendelian randomization)解析を用いて、これら観察試験の知見を検証し、尿酸と虚血性心疾患の因果関係を示すエビデンスは得られなかったとの結果を、BMJ誌オンライン版2013年7月18日号で報告した。
2つのコホート試験のデータを用いたメンデル無作為化分析
メンデル無作為化分析は、リスク因子と強く相関する遺伝子型を操作変数(instrumental variable)とすることで、未測定の交絡要因や逆因果性の調整が可能であり、リスク因子とアウトカムの因果効果の検証に有用とされる。
SLC2A9遺伝子は、循環血中の尿酸値との強い関連が確認されており、操作変数に適すると考えられている。
研究グループは、血漿尿酸値と虚血性心疾患、血圧との関連の評価を目的にメンデル無作為化分析を行い、尿酸値に対する交絡因子としてのBMIの可能性について探索的検討を実施した。
メンデル無作為化分析では、尿酸の操作変数として
SLC2A9(rs7442295)を用い、BMIとの強い関連が示されている
FTO(rs9939609)、
MC4R(rs17782313)、
TMEM18(rs6548238)をBMIの操作変数として使用した。デンマークの2つの大規模コホート試験(Copenhagen General Population Study:CGPS、Copenhagen City Heart Study:CCHS)からデータを収集した。
BMIへの介入で尿酸関連疾患が改善する可能性が
CGPSには5万8,072例(平均年齢57歳、男性45%、尿酸値0.30mmol/L、高尿酸血症12%、血圧143/84mmHg、BMI 26)が登録され、そのうち虚血性心疾患が4,890例(8%)含まれた。CCHSの登録数は1万602例(60歳、44%、0.31mmol/L、16%、140/86mmHg、25)、虚血性心疾患は2,282例(22%)だった。
観察的検討では、尿酸値の1SD上昇と虚血性心疾患の関連が認められ(調整ハザード比[HR]:1.21、95%信頼区間[CI]:1.18~1.24)、高尿酸血症と虚血性心疾患との関連も確認された(調整HR:1.41、95%CI:1.32~1.51)。尿酸値、高尿酸血症と収縮期/拡張期血圧との間にも同様の関連がみられた。
その一方、
SLC2A9(rs7442295)変異の解析では、尿酸値と虚血性心疾患(CGPS=HR:0.99、95%CI:0.95~1.04、CCHS=0.96、0.89~1.03)、収縮期血圧(CGPS:0.17、-0.17~0.51、CCHS:0.12、-0.50~0.73)、拡張期血圧(CGPS:0.11、-0.07~0.29、CCHS:0.40、0.00~0.80)の間の因果関係を示す強力なエビデンスは得られなかった。
BMIの交絡因子としての可能性に関する遺伝子学的解析では、BMIが尿酸値に影響を及ぼすことが示された。BMIが4単位上昇するごとに尿酸値が0.03mmol/L(95%CI:0.02~0.04)増加し、高尿酸血症のリスクが7.5%(95%CI:3.9~11.1)増大した。
著者は、「観察的な知見に反し、尿酸値と虚血性心疾患、血圧の因果関係のエビデンスは得られなかったが、BMIと尿酸値、高尿酸血症との関連が示唆された」とまとめ、「BMIや肥満への介入により、高尿酸血症や尿路結石などの尿酸関連疾患が改善される可能性がある」と指摘している。
(菅野守:医学ライター)