γセクレターゼ阻害薬semagacestatは、アルツハイマー型認知症(AD)患者の認知機能を改善せず、皮膚がんなどのリスクを増大させる可能性があることが、米国・ベイラー医科大学のRachelle S Doody氏らの検討で示された。この結果を受けて試験は早期中止となった。論文はNEJM誌2013年7月25日号に掲載された。ADの原因物質とされるアミロイドβ(Aβ)蛋白は、アミロイド前駆体蛋白(APP)からβセクレターゼおよびγセクレターゼにより切断されて産生される。semagacestatはγセクレターゼを阻害する低分子化合物である。
2種類の用量をプラセボ対照試験で評価
研究グループは、AD治療におけるsemagacestatの2種類の用量の有用性をプラセボと比較する二重盲検無作為化試験を実施した。
対象は、55歳以上、うつ症状のみられない軽度~中等度のAD患者とした。参加者はsemagacestat 100mg/日、140mg/日またはプラセボを投与する群に無作為に割り付けられた。
主要評価項目は、ベースラインから76週までのADAS-cogおよびADCS-ADLの変化とした。ADAS-cogはAD患者の認知機能の評価スケール(0~70点)で、スコアが大きいほど認知機能障害が重度であることを示す。ADCS-ADLはAD患者の日常生活動作(ADL)の評価スケール(0~78点)で、スコアが大きいほどADLは良好である。
高用量で有効性が低く、有害事象の頻度が高い傾向
1,534例が登録され、プラセボ群に501例、100mg群に506例、140mg群には527例が割り付けられた。全体の平均年齢は73.2歳、男性が47%で、約82%がコリンエステラーゼ阻害薬を、33%がメマンチン(商品名:メマリー)を、29%がその両方を使用していた。
データ安全性監視委員会の勧告に基づき試験は完了前に中止された。治療を完遂したのは463例(プラセボ群189例、100mg群153例、140mg群121例)であった。最も大きな治療中止の理由は試験の中止であったが、有害事象による治療中止がsemagacestat群で有意に多かった(p<0.001)。
76週後の認知機能は3群すべてで増悪した。すなわち、ADAS-cogスコアがプラセボ群で6.4、100mg群で7.5(p=0.15、プラセボ群との比較)、140mg群では7.8(p=0.07、同)上昇した。
ADLも全群で低下した。ADCS-ADLスコアがプラセボ群で9.0、100mg群で10.5(p=0.14、プラセボ群との比較)、140mg群では12.6(p<0.001、同)減少した。
52週の時点で、プラセボ群は体重が増加した(0.4kg)のに対し、semagacestat群はいずれも減少し(100mg群:-1.6kg、140mg群:-1.6kg)、有意な差が認められた(p<0.001)。また、皮膚がん(非メラノーマ性)や感染症の頻度がsemagacestat群で高かった。
semagacestatによる検査値異常として、リンパ球、T細胞、免疫グロブリン、アルブミン、総蛋白量、尿酸の低下が認められ、好酸球、単球、コレステロールが上昇した。また、尿pHの上昇もみられた。
著者は、「semagacestatは軽度~中等度AD患者にベネフィットをもたらさないことが示された。高用量のほうが有効性が低く、有害事象の頻度が高い傾向がみられた」とまとめ、「有害事象はAPP以外の蛋白への作用によると考えられるが、臨床的な増悪がγセクレターゼの阻害やAβの低下によるものかは不明」としている。
(菅野守:医学ライター)