冠動脈性心疾患(CHD)との関連が、2型糖尿病の人では有意だが、それ以外の人では関連が認められない一塩基多型(SNP)rs10911021の存在が、米国・ハーバード公衆衛生大学院のLu Qi氏らによるゲノムワイド解析の結果、確認された。同SNPは、グルタミン酸の代謝に関与しており、その作用機序的結びつきも明らかになったという。糖尿病ではCHDリスクが高く、先行研究において、糖尿病の人には特有の心血管リスクを高める遺伝的要因があるのではないかと示唆されていた。JAMA誌2013年8月28日号掲載の報告より。
遺伝子異型は254万3,016個をゲノム解析
研究グループは、糖尿病患者に特有なCHDの遺伝的要因を特定することを目的に、ゲノムワイド解析を行った。Nurses' Health Study(NHS、登録開始1976年、2008年まで追跡)、Health Professionals Follow-up Study(HPFS、同1986年、2008年)、Joslin Heart Study(2001~2008年に登録)、Gargano Heart Study(同)、Catanzaro Study(2004~2010年に登録)から、5つの独立したCHD症例群と非CHD対照群のセットについて検討した。
解析には、CHD症例1,517例と非CHD対照2,671例が組み込まれた。全例が2型糖尿病を有していた。また、それら糖尿病群について、NHSとHPFSのコホートから抽出した非糖尿病CHD症例737例、非糖尿病非CHD対照1,637例との比較も行った。検討された遺伝子異型は254万3,016個であった。
主要評価項目のCHDは、致死的または非致死的心筋梗塞、冠動脈バイパス術(CABG)、経皮的冠動脈形成術(PTCA)、血管造影で確認した冠動脈の有意な狭窄と定義した。
内皮細胞のグルタミン酸代謝機能を32%低減する糖尿病患者に特有なSNP
結果、糖尿病患者には一貫して染色体1q25の異型(rs10911021)とCHDリスクとの関連が認められた。症例群対対照群のリスク対立遺伝子頻度は、0.733対0.679(オッズ比:1.36、95%信頼区間[CI]:1.22~1.51、p=2×10
-8)だった。
同異型とCHDとの関連は、非糖尿病患者の比較検討では検出されなかった。同頻度は0.697対0.696(オッズ比:0.99、95%CI:0.87~1.13、p=0.89)だった(CHDリスクに関する遺伝子×糖尿病の相互作用はp=2×10
-4と有意)。
rs10911021リスク対立遺伝子ホモ接合体は、保護的対立遺伝子ホモ接合体と比較して、ヒト内皮細胞における隣接グルタミン酸塩アンモニア・リガーゼ(GLUL)遺伝子の発現を32%減少するという特徴を有していた。また、γ-グルタミルサイクル中間体のピログルタミン酸とグルタミン酸の血漿中比も、リスク対立遺伝子ホモ接合体において減少することが示された。
これらの所見から著者は、「糖尿病以外の患者にはないが、糖尿病患者においてCHDとの関連が有意なSNP、rs10911021が確認された。また同SNPについて、グルタミン酸の代謝機能に関与していることが作用機序的結びつきによって確認された」と結論している。